ワン・サマー・ガール 〜ドブ子さんがドブにハマっていた理由〜

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 しかし、才能のない人間に対し現実は残酷だ。 「スタメンを発表する。山田、橋本、園田……」 (また、レギュラーになれなかった。もう一年以上……)  うなだれる俺の目にドブ子さんのメールが飛び込んできた。誘われるまま、俺は再び彼女と会った。 「久しぶり。ってほどじゃないか」 「もう会わないって俺から言ったのに、その……」  ドブ子さんはちっとも怒ってなんかいなかった。ただ、少しやつれたようだった。彼女は彼女で思うことがあって俺と遊んでいたはずなのだ。  気まずげな顔をする俺に、ドブ子さんは平然と返した。 「いいよ。もともと私の都合だったし。部活、うまくいってる?」  返答に詰まると、察したのか彼女は顔をくもらせた。俺は正直に答えた。 「俺ってあんまり背が高くないだろ? 周りについていけなくてさ……」  本物の彼女だったら言えないだろうけど、他人のドブ子さんには情けない姿も女々しいところも見せられる気がした。 「NBAに行った武藤選手みたいに背が低くても活躍してるプレーヤーはいるけど、そういう人はやっぱり特別なんだなって……」 「ツライ時は逃げてもいいんじゃない? 私は面倒なお説教はしないから安心して」  ドブ子さんはそう言って優しく微笑んだ。俺の手を取った小ぶりな彼女の手は、やっぱりやわらかくて少しひんやりした。
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