ワン・サマー・ガール 〜ドブ子さんがドブにハマっていた理由〜

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(今までがんばったんだ。もう、休んでもいいよな……)  今日は遊園地に行った。久しぶりに肩の荷を降ろせたような気分だった。腹の底から笑えたのなんて何年ぶりだろう。  ふと俺は思った。バスケを辞めるなら、このまま付き合ってもいいんじゃないかって。ドブ子さんはどう思っているんだろう? 俺のこと、少しは好きになってくれたかな? そんなことが気になりはじめた。 「あ、あのさ……」 「そうそう。私が今日呼び出したのはね」  俺が切り出すより先にドブ子さんが口早に話しだし、思わず黙り込んだ。そういえば、なぜ突然呼び出したのか聞いていなかった。 「最初に言った一ヶ月が……夏が終わるまでに本当のことを言っておこうと思って」 「本当のこと?」 「ーー私、もう長くないんだ」 「は?」  聞き返した。理性は聞いてはいけないと警告しているのに、言葉の続きはイヤでも耳に入ってきた。 「ぼーっとフラフラ歩いてたらドブに落っこちたんだけど、あの時私があそこから出なかったのは……立ち上がる気力もなかったからなんだよ」  ドブ子さんは……いや、透子は教えてくれた。初めて彼氏ができたが、彼女が病気とわかるとすぐに逃げたらしい。映画や小説のように支えてもらえると信じていた彼女はショックを受けたそうだ。  付き合いたてでろくにデートした思い出もなく、こんなことならもっと遊び歩いていればよかったと後悔したという。 「もうどうでもいいや。ここで一人で死のう……そう思った時、俊介に助けてもらってね。『このさい誰でもいいから彼氏がほしい。死ぬ前に恋人ごっこがしたい』。それで声をかけたってわけ」 「ハ……? えっ……?」
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