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俺は透子の肩を掴んで彼女を止めた。
「ダメだ! こんな形、ダメに決まってる……」
「え?」
「俺たち、逃げてるだけじゃないか!」
「仕方ないよ……」
逃げるように顔をそむけた彼女の視線の先に移動し、俺は吠えた。
「やりたいことたくさんあるだろ? 透子なら俺じゃなくてもっといい男と付き合える。諦めていいのかよ!」
「私だって諦めたくない。でも……」
逃げなんて認めない。普通の人は逃げても他の道があるけど、透子の逃げた先には希望なんてない。逃げた末に死ぬなんて、そんなの絶対に認められない。
「夏休みの間までって約束だったけど延長戦をさせてくれ!」
無我夢中だった。実現可能かなんて俺は考えていなかった。
「俺は今年レギュラーになってプロになる! だから、透子も諦めずに治療しよう!」
「ムリだよ……」
「ムリじゃない! 絶対なんとかなる! だから、だから……ムリって言うなよ!」
泣きたいのは透子のはずなのに、俺はいつの間にか泣いていた。みっともなく、彼女の分も泣いた。
本当はーー自分に言っていたのだ。モテないし勉強も得意じゃないし、唯一得意だったバスケまで否定されて俺はずっと泣いていた。
逃げて逃げて、透子まで見殺しにしたら俺は絶対に後悔する。ここで逃げたら一生逃げることになる。俺の背中をさすりながら、透子は言った。
「あのね……誰でもいいって言ったのはウソ。体育館を覗いて、あんな時間まで必死に練習してる俊介を見ていいなと思ったの」
「え……」
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