ワン・サマー・ガール 〜ドブ子さんがドブにハマっていた理由〜

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『松本、最近動きが悪いぞ!』 『は、はい!』 『やる気があるのか? 代わりはいくらでもいるんだぞ!』 『……すみません』  俺が公園で考え事をしているとドブ子さんの声が耳に入ってきて、記憶と現実が重なった。二つの景色はまるで違うトーンの色で、綺麗にまざりあうことができずぐしゃぐしゃのヘドロ色になった。 「……すけ。俊介! どうしたの? 最近よくぼーっとしてるけど」 「ごめん、なんでもない」 「疲れてるんじゃない? 部活がんばってるみたいだし」  部活のことは誰にも言っていなかった。親やチームメイトに言うのは敗北宣言に思えてイヤだった。でも、ドブ子さんは俺のことをよく知らない。  だからなのか、俺が初めて弱音を吐いた相手はドブ子さんだった。 「……うまくいってなくてさ」 「そっか……」  ドブ子さんは無責任にがんばれなんて言わない。哀れんだりもしない。ただ、相づちだけのシンプルな返事が今は心地よかった。ドブ子さんはささやいた。 「ねえ、ひざまくらしてあげよっか? がんばってる君にお姉さんからご褒美」 「そんなの悪いよ」 「いいから」  有無を言わさず引っ張られた。彼女の足に頭を乗せると、柔らかさと心地よさが精神をさらっていく。やわらかかった。それにどことなくいい匂いがした。  ほのかな柔軟剤の匂いと、足元に広がる芝の香りが上手く調和して、俺はぼんやり緑と空と流れる雲を目で追った。
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