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美緒が隠しごとをしていることは彼女の挙動から薄々感じていた。ただ、何を隠しているのかがわからないのだ。
電話をしても連絡がつかないことが多いのは何故? 時々後ろを気にするのは何故? デートのドタキャンが多いのは? デートの途中で突然用事ができるのは?
浮気相手がいる? いや、逆に俺が浮気相手で本命が他にいるのか?
美緒と過ごす日々は甘くきらびやかに過ぎていくが、同時に徐々に膨れ上がる疑念がその甘美な果実を蝕みはじめていた。
問いただすことで彼女との関係は終わるかもしれない。しかし、すでに甘美な果実を味わうにはその虫食い穴は大きく広がりすぎていた。
もう気づかないふりをして先延ばしにすることはできない。
夕食の手を止め俺はさり気なく言った。
「ところでさ、美緒。何か俺に言わなきゃいけないことあるだろ」
そう。本当は漠然とあやしんでるだけで何も知らないにもかかわらず、何かを知ってるかのごとく振る舞い相手から情報を引き出すという手法を取ったのだ。いわゆる鎌をかけるっていう手だ。はたして引っかかってくれるだろうか。
美緒は一瞬固まったように見えたが、いつものように微笑んだ。
「何なのそれ。どうしたの」
ここは芝居を続けるべきだろう。
「……俺に隠してること、あるよな」
「あれを見たのね」
よし、釣り針に引っかかった。うまく魚を逃さないように引き上げなければ。
「説明してもらいたいな」
「あの人のことでしょ」
やっぱり男がいたんだ。覚悟はしていたが、実際に口に出されるとショックは大きい。ポーカーフェイスで続きをうながす。感情を顔に出さないようにしているつもりたが、おそらく動揺は悟られているだろう。
「ララってとても寂しがりやなの」
美緒が飼ってる猫の話か? 話を逸してきたか。ここでペースを握られてはいけない。
「あのさあ美緒。隠してることがあるのは知ってるんだ。でも君の口から言ってほしい」
「わかったわ。ララのこと話すわ」
あくまでも猫の話題で誤魔化そうとするのかと、一瞬声を荒らげそうになったがなんとか自制した。
とはいえ、どう誘導したらいいのかわからず沈黙していると、彼女は言葉を続けた。
「あの人は……。ララは使い魔なの」
何を言ってるのかわからない。
「魔法少女って使い魔のサポートがなければ能力って開放されないのよ。ララとは特別な感情で結ばれた仲間なの」
「あのさあ。他に言わなきゃいけないことあるだろ」
さすがにこんな意味のわからない話には付き合っていられない。
「私が魔法少女だということを知っているわけじゃなかったの?」
何を言ってるのだか。
「じゃあ、ドペルのことね。あれは違うの」
よし引っかかった。
「どう違うんだよ」
「あの人は実は次元断層から生み出された闇の生命体で世界を破滅させようとしてるの! だからあたしたち魔法少女マジカルキャンディは立ち上がったの。危険なのはわかってる。でもお願い。魔法少女を続けさせて!」
「勝手にすりゃいいよ」
白々しい嘘もここまで徹底されると追及するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
自称魔法少女マジカルなんとかの美緒はホッとしたように頬を緩め、その表情はとても魅力的に感じ、俺にはもう他の道は見つからなかった。
そう、恋愛なんて騙し合いだ。騙しきってくれるならその嘘に乗ってやるさ。
でも少し気になるんだよな。コイツってこんな不思議ちゃんキャラだったっけ?
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