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──恐怖と共に生きている──
思っていた通り、洋服ダンスの中には血まみれのシャツとナイフを見つけた。まるで勲章のように残されたそれを見るのは、これで何度目だろう。
真っ暗な部屋の中、私は荒くなる息を落ち着けるようにして、胸に手をあてる。
彼の執着と異常な愛に気づいていた。彼が唯一自分にしている隠し事の正体を知っていた。
始めは私のたった1人の友人だった。
些細なことで大喧嘩して、口もきかなくなって、一週間後に彼女は死んだ。浴室で手首を切って死んだらしい。
自殺でないことは私だけが知っている。
彼女を恨んでなどいなかった。私はただ一言、彼に愚痴を溢しただけだ。
次に死んだのは両親だった。
繰り返してきた虐待と育児放棄。私は酔った勢いで彼にそのことを話してしまった。
いや、実際は死んだかどうかすら分かっていない。数ヵ月前から行方不明というだけ。幸か不幸か、あの人たちを探そうとする人間はいないらしい。
ただ、今日と同じタンスの中に、見慣れた衣服を三着見かけてしまっただけ。
友人と違って、両親に全く情はないが、それでもまさか、こんなふうに、簡単に手にかけてしまうことがあるだろうか。恋人の両親を。
今までに何度も、近しい人が彼に殺されていることを知っていた。
けれど、私は彼を愛しているのだ。
私に無償の愛を捧げてくれる彼を愛してしまったのだ。そして愛されてしまったのだ。どうすることもできない。どうしようもない。
行動はだんだんとエスカレートしていく。ついに言葉を交わしただけの元彼まで殺されてしまった。
いつかその異常な愛に、私は殺されるのではないか。
いやだ。
バレてはいけない。
私が秘密を知っていると気づかれてはいけない。
彼一人を愛しているふりをしなくてはならない。
たとえなにがあっても、この秘密を守らなくてはならない。じゃなきゃ私は、今度は私が
漏れるはずのない明かりが射した。
「ねえ、アキ。なにしてるの」
嗚呼どうか。私だけは。
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