愛であると願う。

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 久々のデートに心が踊る。  僕は待ち合わせのカフェでアキを見つけて、シャツの小さなシワをサッと伸ばした。  手を振って彼女に合図しようとすると、彼女の対面に、誰か知らない男が座っているのに気がついた。人の多い店内は少し騒がしくて、彼女がこちらに気づく様子はない。  僕は後ろから、そっと近づいて耳を側立てる。 「へえ、そうなの」 「まあ、どうだっていいけどよ、今度二人で会おうぜ。なんなら今からでも」 「あっ」 「あ?」  男の後ろに立つ僕に気がついたアキは、一瞬驚いた顔を見せた。そんな顔も出来たのか。  男は銀色の髪に黒いハットを被っている、同い年ぐらいの青年だった。 「なんだ彼氏様のご到着か」  そう言って、舌打ちを残して男は去っていった。  なんとなく察しはつく。しかし、僕は男が座っていた席に座って、わかりきった質問をした。 「さっきの人、知り合い?」 「べつに、元彼」 「そうか」  正直、そのあとの記憶があまりない。  デートは問題なく進められたようだけど、自分でも驚くほど動揺していたらしい。  さっきの男の話、復縁を望むものだったのではないか。もし僕が来るのが少しでも遅れていたら、アキは彼になんて答えていたのだろう。  移り気なアキがいつか僕から去ってしまうことを考えると、どうしても。どうしようもなく苦しい。
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