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あの日から数日。午後すぎの朝食を二人で食べているとき、テレビのニュース番組で、あの日の彼の名前を知った。
『──遺体には刃物で刺されたような痕が十数ヶ所残っていました。警察は動機を被害者への強い憎しみであると考えており、犯人は被害者と関わりのある人物に焦点を当てているとのことです。凶器は未だ──』
「ひどいな。誰がこんなこと。アキ、大丈夫かい?」
「……ごちそうさま。今日は遅くなるの?」
「え、ああ。ちょっと残業することになるかも」
「じゃあ先に寝てるわ」
テキパキといつも通りに食器を片して、アキはそのまま会社へ行ってしまった。
アキの表情は変わらなかった。元とはいえ恋人の無惨な死を知ったというのに。
もしかして、彼女は知っていたのだろうか。彼が死んだこと。彼が殺されたこと。どうして彼女がそんなことを知っているんだ。
それを知っているのは……。
そんなはずはないと、僕は考えを振り払うように頭を振った。
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