わたしは私を演じ続ける

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 長めの休憩とお色直しの時間を経て、わたしと俊介は披露宴会場に戻っていた。  会場では私と俊介の過去の写真や動画をもとにしたムービーが流れたり、俊介の同僚によるちょいウケな余興が行われたり、俊介と私に関するクイズ大会が行われたりしながら和やかにプログラムが進行され、最後に、わたしと俊介から、互いの両親への手紙を読み上げる段となった。  わたしは、自身の両親と、俊介の両親、参加者の全員と、そして俊介に、嘘偽りない感謝の気持ちを述べた。わたしはここにいる全員を騙しているけれど、わたしが目覚めてからずっとわたしと俊介のことを優しく見守り、そして時間を惜しまずサポートしてくれた彼らへの感謝の気持ちだけは本物で、それはわたしだけのものだ。  途中から涙が溢れてきてボロボロになりながらだったからうまく伝わったかはわからないけれど、なんとか最後まで手紙を読み終わると、会場からは温かな拍手が起こった。 「あえか、頑張ったね」  隣で、俊介が幸せそうに、優しく微笑んでくれる。  それだけで、わたしは十分だ。  俊介も両親も、あんなことがあったから、披露宴は無理にやらなくてもいいと言ってくれた。  でも、わたしは披露宴をもう一度開催することを選んだ。  これから先、わたしは拭いきれない罪悪感と、いつ気付かれるかわからないという不安とともに生きていくことになるだろう。  それでもわたしは、俊介の幸せを取り戻すことを願った。そのためなら、どんな苦難だって乗り越えてみせる。  わたしは今日、そのことを再確認しに、そして自分自身に誓いに来た。  俊介も、みんなも、まだわたしの嘘には気付いていない。  これからもわたしは、この嘘を突き通さなくてはならない。  俊介の幸せを、もう二度と奪わないために。  そう強く決意した直後だったからこそ。  わたしは彼が続いて読みあげた手紙の最後に言った言葉の意味に気づくまでに随分と時間を要した。  あえか。僕のために、本当にありがとう。  君のことは、僕がきっと幸せにする。  それを、彼女もきっと望んでいるはずだから。
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