わたしは私を演じ続ける

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わたしは私を演じ続ける

 扉の向こうから微かに漏れる、和やかな談笑。その気配を感じるたび、緊張で手が震えた。  わたしが今から向かうのは、孤立無援の戦場。誰にも助けなんて求められない。……だってそれは、他の誰でもない、わたし自身が選んだことなんだから。 「大丈夫だよ」  ふっと、右手に温もりが宿る。  隣に立つ夫が、わたしの手を優しく握ってくれたのだ。 「みんな、この日を本当に楽しみにしてくれてた」 「……うん。ありがと、俊介」  普段はあんなに物腰柔らかなのに、意外とゴツゴツした手。  心根の善良さが滲み出るような、穏やかな声。  そして、どんな時でも私のことを気遣ってくれる優しさ。 (――ああ、やっぱりわたし、この人のことが好きだな)  そのことを再確認して、わたしは決意する。 「それでは、新郎新婦の入場です」  女性司会の声と共に扉が開かれて、暖かな拍手と言祝ぎが私たちを迎えてくれる。  それはきっとどこにでもある、幸せに満ち溢れた人生2度目の(わたしにとっては1度目だけど)披露宴。  ちょっと変わったところがあるとすれば、至る所に警備員が控えていることくらいだ。  この場の誰もが、彼と、そして私のことを祝福してくれている。  そう……だからこそ。  わたしは彼を、彼らを、騙さなくてなはらない。
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