内緒の彼氏

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 俺の彼女には、どうやら内緒の彼氏がいるらしい。俺が気づいているとも知らず、彼女はいつもと変わりなく接する。  だが、俺は見てしまったのだ。夜な夜な薄暗い天井に向け、ひとり愛をささやく彼女を。好きだの、ステキだの、今夜は眠れそうにないだの、と。絶句せざるを得ない。  とんでもない隠しごとである。  だから、ある日、俺は我慢できず言ってやったのだ。 「幽霊と浮気するなんてなかなかの度胸じゃないか」 「まさかあなた、気づいてないの? 自分が幽体離脱してるってことに」  彼女の思わぬ返しに一瞬冗談かと考えた。が、そういえば、彼女の浮気現場を目撃しているとき、俺はいつも彼女を見おろしていたのだ。 「じゃあ、あれは……」 「そうよ。あなたに向けたものよ」  俺がますます彼女に惚れこんだのは、むろん隠す必要のないことだった。
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