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緑の森
その家は、大通りから山の方に入った、少し寂れた区画の奥にあった。
周囲を明るい森が取り囲んでいる。ぽつらぽつらと家は建っていたけれど、昼間のせいか窓の向こうに明かりは無く、人の気配も無い。しん……と静まり返った道の奥で、時折、風が梢を揺らし葉擦れの音だけ辺りに響いていた。
「ここが、サニーくんの新しい家だよ」
「大きな家ですね」
「そうかな」
車から降りてドアを開けてくれたドノハンさんは、目元を細めて笑みを見せた。
僕に続いてママが車から降りる。
「静かというより、寂しいところね……」
ママは僕と同じ感想を持っていたようだ。
「確かに、街中のような喧騒は無いけれどね、朝は鳥の声が賑やかなんだ。珍しい虫もたくさんいる。裏の森には、大きな蝶も飛んでくるんだよ」
「よかったわね、サニー。夏休みの課題で昆虫採集ができるじゃない」
ママは少しだけ腰をかがめて僕の顔を覗き込み、にっこりとほほ笑んだ。
そんな顔を見せられると、僕は本当のことが言えなくなる。
僕は別に虫なんか好きでも何でもない。むしろ硬い脚が何本もついて、わしわし動く姿は気持ち悪い。蝶だって遠くを飛んでいる分にはいいけれど、目の前であの粉っぽい羽をばさばさされたら、病気になりそうだ。
けれど僕は一言も、そんなふうに言い返したりしない。
「うん、今までにない夏休みになりそうだよ」
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