第一章 東岱前後 第一部 日は東より出づる

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第一章 東岱前後 第一部 日は東より出づる

 その日のことは誰にも予知など出来なかったし誰も備えることはできなかった。  それは社会制度そのものを破壊し改革改革と唱える自称有識者たちを震え上がらせるとてつもない変化であった。  迷宮。それは一連の世界災害とともに現れ魔物を世に解き放ったものである。  この出現によって消えた国もあれば生き残り強い国家になった国もあった。  それは日本。迷宮は人口密度に関わらずに全国へと点在した。迷宮から出た魔物は人口が多い街は守り切れたが人口が少ない土地に住む住民たちを全て守り切るほど国の力は多くなかった。  結果として食料持久能力のない都市の人間ばかり残り食糧不足に陥った。そこで目をつけたのは魔物である。  食べれる魔物を情熱を持って探し調理法として広まった結果魔物の肉に含まれていた何らかの因子が人体に影響をもたらし【スキル】と呼ばれるものを人に宿した。  【スキル】は人の身体能力に大きな影響をもたらしたり火の玉や雷撃を飛ばしたりするような能力を人々にもたらした。この力を使って日本は魔物の駆逐に成功したのだった。  「どうして僕にはロクな【スキル】がないんだ・・・。」  鐵 新司はズルズルと千切れた下半身を引きずりながらわずかばかりの生命の希望へと進んでいた。  傷口は焼け焦げて炭化し、褐色の地面に擦れた服はほぐれて繊維が細かくちぎれてる。そんな彼を玩具のように嬲り遊ぶ怪物が後ろにいる。  ラーバトータス。溶岩を垂れ流す炎の亀でありその強さは中級上位。この迷宮においてはもっと深くに現れる魔物であるが今はこうして上層階に出現している。  モンスタートレイン。これが今回の鐵の窮地の原因である。実力もないのにより下層に入り込んだ討伐者が追ってくる魔物を引き連れて逃げた事によって上層まで高位の魔物が現れてしまったのだ。  「こんなところで死にたく・・・ない!」  あれは魔物の大反乱が起き地表に魔物が溢れていた時のこと。両親を失いただ逃げるしかなかったあの時、魔物に襲われ死ぬつもりでいた時自分を救いそして日本という国を救った男。鐵は彼と約束したのだ自分の命を捨てるくらいなら魔物を倒して人のために使うと約束したのだ。  「くそがぁぁ!!」  いたぶろうとでも思ったのだろうか、近づいてきたラーバトータスに何とか力を振り絞り手持ちの短剣を振るうがしかしーーー  ガキッ  その一撃はその皮膚によっていとも簡単に受け止められる。そしてお返しとばかりに火の玉が放たれ鐵の全身を焼き尽くす。  「あ"あ"あ"あ"」  声にならない苦悶の呻き声が褐色の迷宮の壁に反響する。  鐵の生が保てなくなり意識がなくなっていく中でもはや炎に焼かれ見えなくなった彼の眼球は彼のステータスに記載された何の役にも立たなかったスキルを幻視する。 (おい【転生】お前は一体何の役にたっつってんだ俺が死ぬ時でもお前は何の役にも立たないのか・・・。戦闘に役に立たなかろうともっと役に立つスキルだったらよかったのに。)  鐵の頭の中に浮かぶのは【アイテムボックス】持ちとしてパーティーにポーターとして所属する友人や【鑑定】スキルを持ちギルドの職員として働く友人たちの姿だった。  (なあオッサン俺はがんばったよ。最後まで戦った。いいだろ?俺はオッサンみたいな強いスキルは持ってねーからさ。)  最後に鐵の頭に浮かんできたのは彼を救ってくれた日本の英雄。東京を襲った竜を殺した正真正銘の男。木堂 敬。  (来世があるならオッサンの【竜族の闘気】みたいな強いスキルがいいな。)  そんな考えの中、鐵の意識は深い闇へと沈み込んでいく。 ・・・。 ・・・・・。 ・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 《これより【転生】を開始します》 《スキル保持者の欲求を確認》 《スキル入手を申請》 《必要TP十分量保有》 《【アイテムボックスLv.1】【鑑定Lv.1】【竜族の闘気Lv.1】を習得》 《【転生】作業終了》 《意識を覚醒させます》
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