第一章 東岱前後 第一部 日は東より出づる

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   『オッサンなんでそんな無茶したんだ!』  『俺はそんなものよりオッサンに生きてて欲しかったんだよ!』  『あいつら真っ先に逃げてたくせに!オッサンが東京を守ったのに・・・。』  『七大ギルドだぁ?クソッ!』  無限に湧き出す負の感情、やり切れない思い。  『お前にはまだやることがあるだろ!』  生きる事に絶望して希望を失ったあの時。  『俺たちは七大ギルドの【凶星】だぞ!』  逃げた卑怯者にも勝つことはできない己の不甲斐なさ。 ーーーーお前はここで立ち止まるような男じゃないそうだろ新司  ガバッ  少しカビ臭いような薄手の毛布を足でベットの下方へ蹴り飛ばし上体を一気に起こす。  「夢か・・・。」  いや夢なのか?下層の魔物に嬲られながら殺されたあの焼けつくような痛みは偽物なのか?あの意識の消えた世界で確かに聞いたあの無機質な声は?そして意識が覚醒する超然聞いたあの声は?  「スキル表示」 《所持スキル》 【転生】 【アイテムボックスLv.1】 【鑑定Lv.1】 【竜族の闘気Lv.1】 「これは・・・。」  そこには持っていなかったはずのスキルの数々。思わず一度スキル表示を解除してまた表示しても結果は変わらなかった。思わず枕元の時計を見てみると10月15日朝7時。新司が洞窟で死んだ日の朝であった。  「よしやってみるか」  まずは手元に置いてあったペットボトルを収納と念じてみる・・・そしてペットボトルが消え・・・もう一度念じると・・・戻る。  「【アイテムボックス】は成功したな。次は【鑑定】を試してみるか・・・。」  【鑑定】はダンジョンから産出するアイテムのみの名前などの情報を表示するスキルだ。  「これでいいか。」  新司が持ってきたのは鉄の短剣。ラーバトータスに一撃喰らわせようとしたもので、下級下位のモンスター『ノーマルゴブリン』が落とす錆びたナイフを磨いた物だ。  《鉄の短剣》  【鑑定】スキルを使うと簡潔に名前のみが表示される。これは鑑定レベルが低いためだろう。  最後に【竜族の闘気】である。これは死んだ新司の恩人が持っていたスキル。  【竜族の闘気】は闘気系の中でも最強格に強くまた対竜種特攻のスキルでもある。  鑑定系上位スキルを使った結果によれば能力は以下の通りだ。 【竜族の闘気】  闘気系スキル。自己を強化し身体能力を上げるとともにあらゆる攻撃に対して強い抵抗力を与える防御系のスキルである。  また竜族に対しての特攻能力でもあるが竜族の攻撃も同様にこのスキルの防御が役に立たないので諸刃の剣である。  「よしやるか」    新司は何度も救われたそのスキルを発動する。身体中全体から白い何かが溢れ出し全体を覆っていく。  「なあオッサン。俺もう一度頑張ってみるわ。」  今はいない恩人にして師匠にして親代わりの彼にそう告げる。  「よしまずはスキルを試しに行こう。立川ダンジョンへ。」  そう決心すると武器や防具をリュックに詰める。この時アイテムボックスには多少の物を入れるがフル活用はしない。  確かにLv.1とはいえどアイテムボックスにはかなりのものが収納できる。しかしアイテムボックス持ちはどこのギルドでも欲しがっている。もし協会所属のフリーなアイテムボックス持ちがいれば勧誘されるし断ることができなかった場合他のスキルを明かさなければいけなかったりする。  さらにもしこの【転生】スキルによってまたスキルが増えるようなことがあればもっと大変な事になるだろう。  そもそもスキルというのは一つか二つが普通であり三つあれば優秀、五つあれば天才と言われる。もちろんスキルの内容にもよるのであるが。  「よし準備完了」  朝ご飯のトーストと目玉焼きを食べ切るとダンジョンに行く支度を終える。玄関から外に出て安アパートの鍵を閉めるとそれをポケットに入れながら【アイテムボックス】を使用する。こういう小さくて貴重な品を収納するのには便利である。  「あら新司くん今日もダンジョン?」  「はいそうですよ。沢上さん。」  安アパートの階段を降りていくと現れたのはこのアパートの大家である沢上さんである白髪の落ち着いたおばあちゃんである。【転生】する前も出かけるときにも鉢合わせて孫娘を今度ダンジョンに案内する約束をしたんだった。  「えらいわねぇ。そうだ新司くん今度私の孫娘がダンジョンに潜りたいって言ってるらしいのよ困ったものよねぇ。ダンジョンを直接見て研究に活かしたいみたいで・・・。」  「いいですよ。沢上さんにはお世話になってますからね。」  「ありがとうね。」  沢上さんの家は小さな畑があり余った野菜などをお裾分けしてくれるのだ。新スキルも得たので孫娘さんも安全に案内できるだろう。  「では行ってきます!」  「行ってらっしゃい。」  僕はアパートのコンクリートのたたきの上を箒で掃く沢上さんに見送られながら立川ダンジョンに向かうために最寄りの駅へと向かった。
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