紅に染まる

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「写真とかデザインとかそっちに進みたいのかと思ってた。俺は綿矢の撮る写真、好きだよ」  先生にせがまれて、これまでに何度か撮った写真を見せたことがある。そうすれば先生はいつだって私の写真を多彩な言葉で褒めてくれた。  そう、調子に乗った言い方をすれば、褒めてもらえるのも好みだと言ってもらえるのもいつものこと。それなのになぜか今日は、好きだよの四文字だけがやけに耳に残って、熱い。   「……ありがとうございます」 「まあ、将来なんて分からないよな。まだ高一だしな。これからしっかり悩め。それも青春」  俯いた私と目を合わせるように腰を曲げて覗き込んできた先生が、ニッと歯を見せて笑う。息が止まりそうなくらい驚いて、思わず一歩下がる。  先生の距離の取り方は、ときどき本当に心臓に悪い。  そんな私を見ながらおかしそうに目を細めた後、先生は煙草を持ったままの手で空を指した。 「なあ、綿矢はこの空、何色だと思う?」 「うーん、オレンジとかですかね」 「趣がないねえ」  捻りもない小学生でも言える答えに、国語教師は呆れたように眉尻を下げた。それから先生は煙草の火を消し、ポケットから小さな本をとりだす。先生の意図が分からず戸惑っていると、先生が小さく手招きした。  担任が私を呼んでいるのだ、それを拒否する権利はない。そう、だから、仕方なく。高鳴る鼓動に気づかれないよう深く息を吐き、私は何でもない風を装いながら先生に身体を近づけた。
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