紅に染まる

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 沈みかけの太陽を真正面から浴びた先生は、目を細めながら煙草をくわえ、白い煙を吐き出す。  煙草は苦手だった。だけど先生が吸うのは嫌じゃないと思うようになったのは、いつからだろう。 「あ、ごめん。煙草苦手だっけ?」 「いえ、大丈夫です」  先生の反応で、無意識に先生に目を留めてしまっていたことに気付く。何をやっているんだ、今日は空を写しに来たのに。  先生といるといつも私のペースは乱れる。私がこれまで誰も寄せ付けることなく守っていたスペースに、先生は自然と入ってくる。それがまた、嫌味がない。だから困惑してしまう。 「黄昏時だな」 「たそがれどき?」 「ああ。昼と夜の間だ」  空を見つめたまま、急に先生がまた顔に似合わないロマンティックなことを呟いた。そんな時にはこの人が間違いなく国語教師であることを思い出す。私の学年は現代文を習っているけれど、他の学年では古典も教えていると聞いた。  年齢はおそらく三十歳前後だと思う。緩いパーマなのかくせ毛なのか、空気を含んだような柔らかそうな髪も、黒縁の眼鏡も、ピシッとしない服装も、国語なんて教えている人物には到底見えない。なんなら洋楽を好んで聞いていそうな雰囲気なのに。  そんな先生が教師になった理由もそうだけれど、それよりも国語という教科を選んだ理由に興味が湧いた。 「どうして先生は国語の先生になったんですか?」  突然の問いかけに片眉をわずかに持ち上げた後、先生は答えを初めから用意したかと思う程に滑らかに述べた。 「教師になるならまず日本語を沢山知りたいと思った。だって自分が生徒に教えたり伝えたりするんだよ? 俺が言葉知らないでどうすんだよって思うでしょ」
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