0人が本棚に入れています
本棚に追加
--白波--
静寂の波に揺れていた。
沖へ向かった意識は岸へ押し返される。
この波が永遠に続くことはない。
この世界に終わりがあるように。命に終わりがあるように……。
頭が起床する時間を告げている以上、無視するわけにもいかない。俺は起きようとしたが、ふと違和感を覚える。
瞼の隙間からのぞく淡い光がささやいている。俺は重たい瞼を開ける。
1DKの独り身の部屋に立ちすくみ、ベッドで横になる俺を見つめている女がいる。2色の水色の流線型を胸元にあしらう白のTシャツに、優しい発色の赤いハーフパンツを身に纏う。
Tシャツは華奢な体には大きく、ハーフパンツが少し隠れている。夏らしい装いをした女は薄く笑みを作った。
気だるげに体を起こし、ベッドに腰を据えて女の正面を切った。
「おはよう……。ナギ」
俺は起きたての喉で挨拶をした。
「おはよう。サキヒト」
挨拶も早々に通勤の支度を始める。ダイニングキッチンへ足を運び、テーブル下の収納からコップを出す。
「今日は早いな」
小さなカウンターテーブルの卓上ウォーターサーバーに近づき、コップに水を入れる。
「ナギサは忙しいから朝が早いのよ」
ナギは誇らしげな口調で語る。
俺は充分に冷やされた水を飲み干し、寝室に戻る。
「ていうか、AIに朝とか夜とかあるのか?」
引き戸を開けて適当な服を見つくろう。
俺の質問が気に食わなかったのか、心外だと言いたげな声で返す。
「ナギサは人の生活の側にいるの。朝も昼も夜もあって当然でしょ」
「そっすか」
「こうしてナギサが来てあげてるのに、さっきからすごくクールね。これでもナギサはアイドル的な人気を……っ!? ちちちょっと! なんで脱いでるのよ!?」
「は?」
最初のコメントを投稿しよう!