--押し寄せる波の間で--

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--押し寄せる波の間で--

 ()んだ果物みたいに疲れを臭わせる体を自室へ運ぶ。値引きされた弁当を袋から出し、夕食を取ろうとする。冷蔵庫の余り物とビールを1本手にしてテーブルに並べた。  淡いオレンジの中で、小さな生活音が滲んで消えていく。グラスに注がれるビールが泡を立てて液面を白く染めた。頭の中が少しずつ安らぎを知覚する。  こうしていると、何気なく過ぎていく時間が大切に思える。  いつまでこのささやかなひと時が続くのか。考えても仕方ないかもしれないが、いつか唐突に失われてしまうことだってある。  幸せを感じるからこそ、そんな湿っぽい考えがよぎるのか。  それとも、永遠がない現実に抗えないことを知りながら、未練がましく心の中で拍を打っているのか。何事も継続とか言ったりもするが、それが一番難しい。……何考えてんだろうな、俺は。  ついつい物思いにふけってしまう。こういう時くらい、リラックスできるようなことを考える方がいいだろうに。これも独り身の(さが)か。真面目に考えている自分がバカバカしくなり、思わず笑みが零れた。  夕食を終えた俺は、近場のコインランドリーへ向かい、自宅に帰るところだった。夜も深く、住宅街の辺りともあって密やかな空気に包まれている。  酔いも少し醒めてきて、ふと迫下と話していたことを思いめぐらす。  ランダムでユーザーの下を訪れるナギサファースト。単純に滞在時間を短くするよう指令されているだけで、俺以外のところにも頻繁にナギサファーストが現れている可能性も考えられる。  それか俺が知らないだけでナギサファーストは複数体いるのか? でもそれじゃナギサファーストは唯一無二の特別な個体という運営の触れ込みと矛盾してしまう。  俺は立ち止まり、橋の欄干(らんかん)に背を預ける。スウェットのポケットからスマホを取り出す。  公式アプリの問い合わせ画面までアクセスし、文字窓に文を打ち込んでいく。ナギサファーストの不審な挙動を偽りなく書き記した。あとは送信ボタンを押すだけ。  親指が送信ボタンに向かう。車が目の前を横切り、アスファルトを擦りながら走り去った。
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