--押し寄せる波の間で--

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「制御ソフトが機能しなくなったの。改良されたソフトをインストールしても直らない。それでマスター、えっと……ナギサを作った会社で、会議が行われたみたい。会議の結果、ナギサは停止されることが決まった」  ナギが改まって言うので身構えてしまった。俺は拍子抜けした気分になりながら微笑む。 「そっか。エラーじゃ仕方ないな。調整すればなんともないだろ。活動再開はいつになるんだ?」  俺はほがらかに尋ねる。しかし依然として、ナギの表情は哀しい色を纏っていた。 「直すには一度得た知識と情報をリセットしなきゃいけないみたい。あなたと話したことも、あなたの名前も、すべて忘れてしまう。だから、今日でお別れ」 「あぁ、そういうことか。ふふ、ナギもずいぶん律儀だな。そういうことなら、長いメンテナンスになるだろうし、しばらくはナギと話せなくなるな」  俺はまた明るく言うが、ナギは俺の態度に不満そうな顔をした。かと思えば、また暗く表情を落として視線を逸らす。俺は不審な態度を見せるナギに困惑する。 「今日は一段と変だな。言えないことでもあるのか?」  すると、ナギは小さくして言葉を零す。 「言えないんじゃない……。言いたいけど、言えないの」 「また好きな哲学の話か?」 「……そうね。哲学の話に似てるかもしれない」  ナギは視線を逸らしたまま、(うれ)いを帯びる笑顔を見せると、瞳を閉じて胸に手を当てる。まるで深呼吸をするように息を整える。俺はナギの挙動にいぶかしみ、どう話を持っていくか思いあぐねるばかりだった。  ナギはゆっくり2回深呼吸をした後、しとやかな仕草で両手を下ろし、綺麗なまつ毛をこしらえた瞼を開ける。  艶やかな笑みをはらんだ表情は、真っすぐ俺に向けられた。
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