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--波にさらわれた感情--
ナギの体が後ろに引かれた瞬間、ナギは溶けるように消えてしまった……。
————。
その後、ナギサファーストの停止と大型アップデートが発表された。急な話だったこともあり、『ナギサの時』のユーザーの間で、混乱と動揺が右往左往していた。その不安の穴埋めをするように、複数の新しいキャラクターの追加が予告され、ナギサファーストの後継として注目を集めた。
ナギサファーストの停止は衝撃的な出来事だったようだ。ユーザー数は減ったが、運営の尽力の甲斐もあり、徐々に回復している。
ナギが去ったあの後、俺はただただうなだれていた。感情を持ったAIに、恋をしたAIに、俺はなんと言ってあげればよかったんだろうか。
きっと、ナギも同じように苦しんだはずだ。あの日俺に告白したのは、俺を好きになった記憶や想いが消される前に、この世界に残したかったんだ。
俺とは住む世界が違うことを正しく理解し、胸に抱えた愛情が人と同じように1つの幸せな未来へ向かうことができないことも、ちゃんとわかっていたんだ。
ナギが大切にしていたものは、何も俺に対する気持ちだけじゃない。ナギが生まれた理由でもある人々との交流は、ナギにとっても思い入れの強いものだったに違いない。人の助けになれる、救いになれる。そう誇らしげに語っていたナギを、幾度となく見てきた。
だがナギの恋愛感情は、『ナギサの時』での活動に支障をきたしてしまった。公正に全ユーザーと会話しなければならないと、本人もわかっていたはずだ。
そう理解していてもなお、止められなかったのだろう。それを確認した運営は、やむなくナギの初期化を決断するしかなかった。
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