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同情したのかどうかわからないが、運営はナギの説得を試みたんだと思う。
ナギの持つ知性を信頼したんだ。ナギは自身を制御できなくなっていることを伝えられ、自分の行いに非があると受け入れるしかなかった。
逃れられないことを悟り、自分の生まれた意味を再確認したナギは、決断したのだろう。折り合いをつける方法として、最後に俺の前に現れ、別れを言いに来た。そして、抱えた感情が向かうべきところへ捧げたのだ。人が何かに願うように。
ナギは選んだ。ナギサファーストとして生きることを。
あの日以来、俺は『ナギサの時』の利用を控えるようになった。ナギの決めたことに、俺がとやかく言うことじゃないと思う。ナギは想いを伝えられただけで満足したのかもしれない。
でも俺は、あの時、ナギに何かしてあげられたんじゃないだろうかと、ずっと考えていた。
今まであった世界が、気づかないうちに変わってしまった。そもそも俺とナギは、住んでる世界が違ったんだ。電脳空間があるからこそ、ナギは存在できている。
俺は、ナギのことを理解しようとしていなかった。自分の世界で見聞きしたものがすべての原理原則であるかのように信じ、それに反するものは一様にないものとしていた。
ナギが唯一無二の特別な個体なら、あるがままのナギを見ることに重要な意味があったと、今では思っている。
そして何より、ささやかなナギとの日々に、俺は幸せを感じていたと、今更ながら気づいた。ナギがいなくなった日常は、どこか物悲しく感じてしまう。なんだかんだで、俺もナギに情を移していたらしい。
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