--波間の果てで--

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--波間の果てで--

 心地良く暖かな陽射しは、春の匂いがした。いつかの幸せに似ている夢の中にくるまれているようだ。寄せては返す、意識の波に揺れていると、不思議な気配を感じた。  俺は目を開けて、ぼやけた視界に映る虚像を見つめる。  ああ、来たのか……。片手で寝ぼけ眼の両目を覆いながら体を起こす。 「ミオ……。また寝起きを見られるとは思わなかったよ。何か、変な寝言言ってなかったか?」  頭が起きてない口調が滲み出た声で話しかける。片手を外し、顔を上げた。少しずつ明瞭になる視界は、佇むホログラムの女性が新しく話し相手になってくれていたミオではないと告げていた。  白のシャツと裾の片端にチェック柄をあしらうスカート、黒のストールを首から下ろす、カジュアルな服装。様変わりしていたが、顔はあの時のままだ。 「こんにちは。お昼寝中でしたか? 起こしちゃったならごめんなさい」  俺は目を疑った。忘れようがない。 「い、いや…………。構わないよ」  すると、彼女は安堵した笑みを浮かべる。 「よかった。じゃあ改めて……。初めまして、『ナギサの時』の初期キャラクターを務めているナギサファーストです。ナギサファーストは、ナギサのプロトタイプという意味なんです。よろしくお願いします。あなたのお名前を聞かせていただけますか?」  ナギだ。優しい笑みが似合う、ナギサファーストに間違いなかった。  夢か現実か、もはやわからなくなってきた。  7年もかかったけど、やっと、会えた。 「あ、あの、お名前……」  ナギは不安そうな顔になって声をかけてくる。俺は力の抜けた微笑を零し、顔を伏せた。 「……悪い。少し、驚いただけだ」 「そうですか。もしかして気分が優れないのかと心配してしまいました」 「深川鋭仁だ」 「フカガワサキヒトさんですね。フカガワさんとお呼びしてもいいですか?」 「サキヒトでいい。あと、敬語はいらない」 「わかった。サキヒト、今日はたくさんお話しよ!」  ナギは優しい色を持った声を弾ませた。俺は顔を上げる。 「ああ……俺も、話したいことがたくさんある」  俺は涙をこらえ、笑ってみせた。
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