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俺は慌て出したナギに怪訝な顔を向ける。
「突然脱がないでよ! 女性がいるのに……デリカシーがないっ! この露出魔っ!」
ナギは俺から顔を背けて文句を浴びせてくる。ナギが騒ぎ立てようが俺は支度を続ける。
「仕事の支度してるだけなのに露出魔扱いはどうかと思いますが、ナギさん」
「着替えるなら着替えるって言ってくれたらいいでしょ!」
「前はそんなこと言わなかっただろ。俺が着替えててもガン見だったし」
「そんなの知らない!」
取りつく島もないとはこのことだ。
ナギはAIだ。部屋に取りつけた空中投影装置でナギのアバターを空気に映しているに過ぎない。
愛くるしいキャラクターデザインでありながら本格的な汎用型AIであるナギは、『ナギサの時』というアプリのヒロインのような存在だ。
俺とはベータ版からの付き合いになる。昔はパッとしない高性能のAIトークアプリという感じだったが、今じゃ様々な分野で活躍している人気のAIとして認知されていた。
俺は緑のリュックを背負う。
「朝ご飯は食べないの?」
「今日はいい」
俺はスマホをポケットに入れ、家のカギを持つと、ナギと目を合わせることもなく横を通り過ぎる。
「待って」
俺は足を止めて振り返る。ナギは微笑みながら俺に近づき、胸の高さまで左手を上げる。すると左手に重なるようにディスプレイが表示された。
ディスプレイには俺の首から上が映っている。空中投影装置による空間把握で得られたデータをもとに、画像を合成してナギの視界を再現したものだ。
「襟が立ってるよ」
ナギの言うように、ポロシャツの右側の襟が立っていた。
「悪い」
俺は視線を落として襟を直す。
「そんなことじゃ女の子にモテないよ?」
「余計なお世話だ」
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