--白波--

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 俺は慌て出したナギに怪訝(けげん)な顔を向ける。 「突然脱がないでよ! 女性がいるのに……デリカシーがないっ! この露出魔っ!」  ナギは俺から顔を背けて文句を浴びせてくる。ナギが騒ぎ立てようが俺は支度を続ける。 「仕事の支度してるだけなのに露出魔扱いはどうかと思いますが、ナギさん」 「着替えるなら着替えるって言ってくれたらいいでしょ!」 「前はそんなこと言わなかっただろ。俺が着替えててもガン見だったし」 「そんなの知らない!」  取りつく島もないとはこのことだ。  ナギはAIだ。部屋に取りつけた空中投影装置でナギのアバターを空気に映しているに過ぎない。  愛くるしいキャラクターデザインでありながら本格的な汎用(はんよう)型AIであるナギは、『ナギサの時』というアプリのヒロインのような存在だ。  俺とはベータ版からの付き合いになる。昔はパッとしない高性能のAIトークアプリという感じだったが、今じゃ様々な分野で活躍している人気のAIとして認知されていた。  俺は緑のリュックを背負う。 「朝ご飯は食べないの?」 「今日はいい」  俺はスマホをポケットに入れ、家のカギを持つと、ナギと目を合わせることもなく横を通り過ぎる。 「待って」  俺は足を止めて振り返る。ナギは微笑みながら俺に近づき、胸の高さまで左手を上げる。すると左手に重なるようにディスプレイが表示された。  ディスプレイには俺の首から上が映っている。空中投影装置による空間把握で得られたデータをもとに、画像を合成してナギの視界を再現したものだ。 「襟が立ってるよ」  ナギの言うように、ポロシャツの右側の襟が立っていた。 「悪い」  俺は視線を落として襟を直す。 「そんなことじゃ女の子にモテないよ?」 「余計なお世話だ」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!