--引き波--

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--引き波--

 昼休みの時間となり、他の社員が席を立ってブースから去っていく。 「なあ深川」  俺は右に視線を投げる。キャスター付きの椅子を滑らせ、近づいてくる男、迫下城(さこしたきずく)。ニヤついた表情が警戒させるこの馴れ馴れしい男は、俺と同期だと知るや否や、よく話しかけてくるようになった。先輩風を吹かせて……。  実際、商品企画部に入ったのは迫下が1年早かったのもあり、教えてもらって助かったこともある。その分、色々面倒なことも多いけど。 「メシにしようぜ」 「今日コンビニ弁当だからここで済ませようと思ってんだけど。それでもいいなら」 「おう。全然いいぜー」  俺達は自分のデスクから収納机を出し、持ち寄った弁当を置いて昼食にする。 「最近どうよ」  なんて雑な質問だ。毎日と言っていいほど顔を合わせているから仕方ないかもしれないが、味気ないとも思ってしまう。 「まあ……普通かな」 「普通って……」  期待した返答じゃなかったらしく、迫下は苦い表情をする。 「そういうお前はどうなんだ?」 「そうだなぁー。ぼちぼち普通だな」 「俺と変わんねえじゃん」  今度は俺が表情をゆがめた。すると、迫下は目を細める。 「あのなぁ。俺とお前じゃ普通の次元が違うだろ? 俺は既婚者、お前は独身。俺は普通の幸せを手に入れた者なのだよ」 「はいはい」  俺はスケールの小さな見栄を適当に受け流す。 「なんなら、おかずに不幸話を聞かせてくれてもいいぞ」 「不幸話ねぇ……。あ」 「なになに、何かあったのかい!?」 「い、いや、不幸話ってわけじゃないんだけど……」 「うんうん」  食いつきが尋常じゃない。公式で発表されたことじゃないからウワサ程度の話になってしまうが、この際確認しておきたかった。
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