--引き波--

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 それを聞いた迫下は、大げさに咳き込み始めた。胸を叩いて(もだ)える迫下。タンブラーを口に運ぶ。二口ほど飲んで深く息をつくと、鬼の形相で真剣な瞳を向けてくる。 「ど、どどどどれくらいで現れてるんだ?」 「ほぼ毎日……」 「お前、どんな細工をしたんだ?」 「人聞きの悪いこと言うなよ。俺は何もしてねえ」  迫下からそんな人間に見えているのか、俺……。 「ま、ただの不具合だとは思うけどな」 「ナギサファーストがほぼ毎日お前の家に。まさか、ナギサファーストに通い妻機能が備わっていたとは……」  迫下は神妙な雰囲気を醸し出しながら呟いた。心ここにあらずといった感じだった。 「通い妻って……」 「ふーん、深川は生身の女より仮想の女が好みなんだ」  色香(いろか)な甘い声が耳をくすぐり、背筋が伸びる。弾かれたように視線を投げる。長い栗色の髪を下ろす女性は不敵な笑みを(たずさ)えていた。 「華鷲(はなわし)部長、お昼に行かれてなかったんですね」  心臓をバクバクさせながらも平静を(よそお)う。 「終わらせておきたい仕事があったからね」  華鷲碧深(はなわしあおみ)。俺と迫下と同期でありながら直属の上司という複雑な関係にある。  研修期間中は3人でよく話していたが、それぞれ違う持ち場もあって話す機会は自然と減っていた。それがなんというめぐり合わせか知らないが、俺が商品企画部に異動となったことで、再び逢いまみえる形となった。 「部長が直々にブースに来るなんて、なんか不吉ですね」  迫下の発言こそ、俺は不吉な予兆を感じた。それは気のせいじゃなかったと思い知る。華鷲部長の表情が氷のように固まっていた。 「私を疫病神扱いするんだ。そういうことならみんなに言っちゃおうかなー」 「な、何をです?」  華鷲部長はとってつけたように人差し指を顎に添えてゆっくり語り出す。
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