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黙り込んだ私を見て、男も口を閉じた。不穏な静寂が訪れる。と、不意に、男のモバイルが驚くほどの大音量で鳴り響いた。それに応答するうちに、表情が見る見る険しくなっていった。
「なに? どういうことだ? 明後日?」
さらに小声になってやり取りが続き、それから私を見て言った。
「やっかいなことになりそうだ。彼らは、君の改変遺伝子が本物であるとの確証が取れないと言ってきた。自分たちの機関で、じかに検査したい、と」
「え…」
「君から直接、遺伝子サンプルを採取したいそうだよ。明後日。“祖国”は、それを了承した。今から君を、家に送る」
「どういうことですか?」
改変された遺伝子として“祖国”が国際機関に渡したサンプルがでっち上げかどうかを直接調べに来る、ということはわかった。でも、家に送るとは?
私の疑問を読み取ったのか、男は苦々しげな声で言った。
「君の自由を奪っていると思われてしまうのは、避けたいからね。見張りはいても、家で自由に過ごせているということを見せなければ」
実際に、自由を奪っているくせに。こんなの、ひどい誤魔化しだわ―頭に浮かんだ言葉は、けれど決して声にすることは無かった。
***
2日後。検査のために私の元に訪れたのは、医師の資格があるという年配の男性と、男性と、彼と同年代くらいの女性、そして、3人の、スタッフらしき人々。女性は温かな笑顔であいさつをし、心配しなくていいからね、と私の緊張をほぐすように言った。そして、
「申し訳ないけれど、あなたは部屋を出ていただけます?」
立ち会おうとした見張りに、彼女はそう告げた。
「それは困ります。ちゃんと見届ける責任がある」
「あなたがいたのではこのお嬢さんは緊張してしまうわ。どうせ監視カメラがあるんでしょう? それで十分じゃないの」
毅然とした言葉に見張りは気まずげな顔でどこかに連絡を取り、
「わかりました。では、30分だけ」
それ以上は認めません、そう言いおいて、部屋を出て行った。扉が閉まると、2人は私を安心させるように微笑んだ。
「さて、始めましょうか」
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