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夜10時過ぎ。安アパートのドアをガッツンガッツン叩く音。ふざけんじゃねえぞこの時間に…と文句を言うために、彼は玄関に向かった。
十松寿春。33歳。フリーライター。のんべんだらりとこの歳まで来てしまっているのは、自分が一番感じている。だからといってこんな時間にけたたましくドアをぶっ叩かれる覚えは…
「寿春!開けて!ねえお願い!子どもが大変なの!」
…あった。この金切声…喧嘩になると決まってこの声で罵詈雑言をまくし立てた女…
「まさか…亜季か?」
「そうだよ!久しぶりだね寿春…」
「帰れ」
「は?」
「てめえ突然いなくなりやがって、3年後にノコノコと…どういうつもりだ?」
女は豊谷亜季。29歳。推定無職。4年ほど前は寿春と恋人同士で、この部屋で半同棲生活をおくっていたがある日突然出て行った。
それっきり音信不通だったのが、突然の再来訪である。
「私がいなくなって寂しかった?声に出てるよ」
「声に出てるとしたら怒りだけだな。いいからとっとと…」
寿春は、最初に亜季が言った言葉を思い出す。
「ん?子どもって言ったか?」
「そうそう、感動の再会よりもまずはこの子よ」
「嘘くせえ、子どもって…」
「本当なの、早く…ああもういいわ自分で開ける!」
亜季は鍵をガチャガチャし始めた。
「あっ、てめえ合鍵を…」
「鍵替えてないなんて。やっぱ私を待ってたのね」
ドアが勢いよく開き、金髪ミニスカへそ出しのやたら露出の多い女が抱きついてきた。すごい勢いで頬や口にキスをしまくってくる。
腕や首のあたりに生傷がいくつかあるが、大方キッツイDV男と付き合っているのであろう。相変わらずだらしないようだ。
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