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幕開け
「犯人はこの中にいる」
豪雪に孤立するロッジで、あたしに向き合う峰岸さんの目が鈍く光った。
だけど、これっぽっちも期待してない。いや、むしろ怖い。
だって、スマホの電波が届かないほど、外界と隔絶したこの土地で、すでに三件もの殺人事件が発生しているから。
探偵が腰を上げるには、遅すぎるでしょ。
一堂に会した夕食での、毒殺。
内鍵が掛けられた密室での、絞殺。
足跡が往路一人分しかない雪道での、刺殺。
これは、推理小説でいうところのクローズド・サークルだ。
残る滞在者はあたしを含めて、たったの三人。
つまり、外部の者の犯行を払拭した場合、自分以外の二人のうちどちらか一方、または双方が犯人、という疑惑を互いに抱き続けなければいけない。
いま峰岸さんがあたしに向かって、犯人当ての解を示そうとしてるのは、生存者の内の一人、香ちゃんが犯人だと思い至ってのことなのだろうか?
香ちゃんは少し離れた場所で、細い体を折りたたむようにして椅子に座り、もとから色白な顔を、より一層白くしてこちらを注視している。
利発な子。視野が広くて、名前の通り鼻が利くのね。
犯人だろうと、犯人でなかろうと、犯人扱いされるのは本意ではないでしょう。
でも、あたしは峰岸さんを信じていないし、また、香ちゃんに心を開いてもいない。
あたし以外の誰かを信じるなんて、いまのあたしにはとてもじゃないけど、無理な話だ。
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