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疑惑は焦燥に駆られ、推理は暗礁に乗り上げ、絶命の警鐘が絶えず頭上で鳴り響く。
脳みそがオーバーヒートして、思考が緩慢になる。動悸が激しく脈づき、胸が苦しい。
みんな、暗闇に手を伸ばして霞に指を梳かしているんでしょう。
こんな日常とかけ離れた精神状態で、あたしの思考も鈍りがちになっているのは確かだ。だから、峰岸さんの犯人当てが真実に辿り着いているのなら、恐怖も手伝ってか、どうしても聞いておかなくてはいけない。
「ど、どうして、わかったんですか?」
恐る恐る尋ねた。
「わかった。というか、それしか考えられないんだ。消去法だよ、麗子さん。殺害方法の特定が出来たことで、死因が自殺とは考えられない」
顎を引き、首肯する。それは分かっている。
「どの殺害状況も、宿泊者全員に犯行が可能だった」
「……その、通りだと、思います」
ごほごほ、と咳き込む香ちゃんも力なく同意した。その同意には、私は犯人じゃないよ。という意味も込められていると思う。
「この吹雪の中、外からの侵入者は考えられない。ロッジの中に人が隠れられるスペースもなかった。だとすると犯人は、いま俺たちが顔をつき合わせている、この三人のうちの誰かということ以外、考えられなくなる」
峰岸さんの声がひきつる。
「俺は、犯人の思惑がわからない。だから、いまここで犯人を絞れない。次に誰が狙われるのかも検討がつかない」
だけど、おそらく。言葉を区切り、あたしと香ちゃんを交互に睨め付けた。
「次の殺人が起きる場合は二人同時だ」
あたしも峰岸さんと同じような目をしているのだろう。
沈黙と疑心の冷ややかな腹の探り合いに、じりじりとした視線が互いに絡む。しばらくすると、
「俺は、俺は死にたくないんだ」
峰岸さんの囁きが、力なく室内に響いた。
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