第12話 九歴 師走

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 これはクエスト・ガイドの試験にも出ていたのだが、卯月も居るのでおさらいとして口にした言葉だった。  卯月が、 「ふぅ~ん……  あれ?  そうだっけ?」  などと言って、クエスト・ガイドの資質を問われるような事になるのでは無いかと思って心配したが、卯月もそれは常識として理解して居たような反応なので、ひとまずX君はホッとしたのだった。  モンスターのたむろしている場所を越えて、しばらく進むと、ようやく、【海底神殿デルタ】に着いたのだった。  直径1キロちょっと――やはり思っていたものよりもスケールの小さい【海底神殿】だった。  【海】のテーマの冒険案内でここに来た時、ガッカリするようでは、案内する意味が無い。  なので、この【海底神殿デルタ】の利点――良い所を探す事にした。  他の【クエスト・ガイドオフィス】の公式発表だと、ここで良いとされている場所は三カ所存在する。  1カ所目は中央にある花壇だ。  ここでは深海でしか咲かないとされている10種類ほどの花が咲いているのだ。  中でも薄い青みがかった花びらを持つとされる【深海桜(しんかいざくら)】は美しい花ベスト1000に何度も選ばれたほどの花だ。  その他の9種類の花もなかなかの美しさであると言える。  この【海底神殿デルタ】の中央花壇では、深海の花と地上の花が一緒に咲いている。  深海と地上の花がコラボレーションで咲いているというのがここでしか見れない光景とされている。  2カ所目は、【海底神殿デルタ】の神殿の入り口にある男性神と女性神を模したとされる【夫婦神像(めおとしんぞう)】だ。  この二つの神像は大変美しいと評判なのだ。  残念ながら、女性神の方の左肩から先が誰かが破壊したのか、下に落ちて砕けてしまっているが、それでもおつりが来るほど美しい神像なのだ。  男性は女性神を女性は男性神を見にやってくるという。  3カ所目は、神殿奥にある【祭壇パズル】だ。  スライドさせるタイプのパズルが10億ピースほど敷き詰められていて、まだ誰も解いた事がないとされている。  このパズルが解けた時に何かが起きるとされているが、現在の所1200万ピースほどしか埋まっていないと言われている。  貴方も、ピースを埋めて見ませんか?という触れ込みでやるが、パズルが複雑過ぎるので、よほどのマニアでない限りはあまり挑戦しないスポットだ。  今回の開拓冒険は、以上の3カ所以外の新たな観光スポットを見つけるという事が目標になる。  【海底神殿】としては小さく、あまり、クエスト・ガイド達が探っていないという所に【卯月クエスト・オフィス】として入り込む余地はあると思っていた。  表面上はあらかた探り終えているだろうが、隠れスポットがあるかも知れない。  今回はクエスト・ガイド6名で手分けして探して見ようという事になっている。  ギリギリの時間まで確認した結果、新たに4カ所の名物となりそうな場所を確認した。  4カ所目としては、石畳を取り除くとその裏についているフナムシに似たグロテスクな生き物がフナムシでは無く、【グルーメン】というモンスターだという事が解った。  この【グルーメン】は見た目がフナムシに似てグロテスクなため、敬遠されがちだが、焼いて食べるとロブスターに近い味だと言われているのだ。  【グルーメン】の名前の由来は【グルメ】から来ていて、本当のグルメしかこの味にたどりつかない秘密の味とされているらしい。  一部の地域では高級食材として認められている。
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