第12話 九歴 師走

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 すると、美海(みうみ)が、 「呆れた。  娘なのに、知らないの?  快挙よ。  大発明よ。  あなたのお父さんの系列会社が凄い発明したのよ。  ホントに聞いてないの?」  と言った。  彼女も何やら興奮している。  そう言えば、如月(きさらぎ)の見舞いに行った時に、父、師走が何やら口走っていた様な気がしたが、どうせパパの言う事だから、くだらないちょっかいでもかけてこようとしているのかなくらいの気持ちで話半分に聞いていた。  確か、もうすぐ何かが出来るかも知れないとかなんとか言っていた様な気がするが、うろ覚えで何を言っていたかよく覚えていない。  仕方ないので、卯月は師走に電話をかけて聞く事にした。  卯月は、 「もしもし……  あ、パパぁ?  うん、私。  卯月よ。  うん。  元気。  みんな元気でやってるよ。  パパは元気なの?  え?  私が居なくて寂しい?  何言ってんのよ。  それよりさぁ。  パパってさぁ、何か作ったの?  え?  何?  何それ?  よくわかんない……」  という感じに聞いて見た。  何となく、師走の反応が残念がっていた気もした。  師走にとってみれば娘の感動した声を聞きたかったのだが、卯月の反応の薄さにがっかりしたのだ。  如月が大けがをしてから、師走は自身の経営している会社を縮小してまで、九歴グループの一つ、【九歴技研(くれきぎけん)】に多額の融資をしてある研究をさせていた。  それは、【(スリー)ランク降格弾(こうかくだん)】と言う弾丸の発明だった。  商品名は【Ωランククラッシャー弾】と言う。  この弾丸に撃ち込まれたモンスターは一定期間、3ランクほど、ランクが落ちるのだ。  これによって、撃ち込まれたΩ1ランクのモンスターはSランクモンスターに、  Ω2ランクモンスターはSSランクモンスターに、  Ω3ランクモンスターはSSSランクモンスターに一時的に降格するというのだ。  SSSランクモンスターの力であれば、如月天狗レベルの冒険者であれば、十分に攻略可能となるのだ。  残念ながら、Xランクモンスター【ネクスト・フィアー】にこれが利くかどうかは判明していない。  が、独自に組織した勇者チームとΩランクモンスター相手に実戦研究した結果、ΩランクモンスターにあるとされているΩ粒子(おめがりゅうし)に反応して、3ランク、レベルが降格する事が確認されたのだ。  全てのΩランクモンスターに効果があるという保証はまだ無いが、これが効果ありと完全に認められたら、Ωランクモンスターの駆逐も不可能ではないと言えるのだ。  つまり、これは全ての冒険者にとっては喉から手が出るほど欲しがる様なアイテムとなる。  これを【如月天狗】などの実力のある【クエスト・ガイドオフィス】と共同で実装していけば、Ωランクモンスターの掃討に一歩前進する事になる。  最も、まずは、この【Ωランククラッシャー弾】をΩランクモンスターにヒットさせなければ、話にならない事なので、超々距離からの射撃が必要となる。  1発あたり、3回分の冒険の費用に相当するほどのコストがかかっている【Ωランククラッシャー弾】をもっと安価で手に入れる事が出来たなら、実力の足りない冒険者も高レベルのモンスター攻略が夢では無くなる時も近いのだ。  全ては娘の危険を少しでも回避したいと願う父親の愛の結晶であると言える大発明品だった。  師走は娘達がクエスト・ガイドという危険な仕事について居なければ、  如月が怪我をしなければこの発明に力を入れる事も無かったのだ。  全ては父親としての【愛】の力が為した奇跡だった。  卯月の反応こそいまいちだったが、他の姉妹達には師走は父としての威厳を示せた事になっていた。  娘達から尊敬のまなざしで見られていたのだ。  卯月の反応だけが残念だったが。  師走は娘達の行動を影からサポートするために色々と動き回っていたのだ。  何か少しでも力になれないかと多方面で当たっていた。  【Ωランククラッシャー弾】もその一つだった。
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