楽園に明日は来ない

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 ***  今日も外は、赤々と燃え盛る夕焼けの景色が広がるまま。  この町にも時々曇りや雨の日はあるが、もともとの気候がやや乾燥気味ということもあって、雨がない日が多少続くことに違和感はない。一週間前きっちりと雨は降ったし、今日も同じように晴れた夕焼けが広がることは何もおかしなものではないだろう。  ただ、もう何年も爽やかな青空や、星と月が輝く夕方の空を見ていない。  気温も暑いまま固定されてしまったようで、四季らしい四季も失われた状態になっていた。ずっと夏のような気候が続いている。政府が食料などの供給量を増やしてくれているので、人々が飢えたり水不足になる心配がないことだけが唯一の救いであった。 ――ずっと夕方でも私達が困らないのは、この町では屋外でほとんど作物の生産をしていないからなのよね。そうじゃなかったら、多くの作物が育たなくて、農家の人たちが困っていたところだもの。  その日もいつものように、とろとろと差し込んでくる赤い日差しを浴びながら、私は書庫で本を読みあさり続けていた。 ――ふんふん。……へえ、我が家のご先祖様って、ほんと凄い科学者だったのね。政府にも一目置かれていたんだわ。私達が立派なお屋敷に住めるのも、書庫の本を無理やり持っていかれなかったのもそういうことなのかしら。  先祖が生きていた頃――まだ悪魔が現れる前とされている時代の本を見つけて、私は興奮した。紙はだいぶぼろぼろになってしまっていたし、書体もかなり古かったので読みづらかったが。いかんせん、現代文と古文だけは学校でもトップクラスの私である。多少古い本でも、時々辞書の力を借りればすらすら読むのは造作もないことだった。  床に座り込み、本棚の影にランプを置いて先祖の本を広げる。  かつてこの世界に悪魔がいなかった頃。この国の科学技術は、もっと発展したものであったようだ。LEDと呼ばれる省エネルギーの電球、自転車よりずっと早い自動車なる乗り物、それよりさらに早い電車というたくさん人が乗れる乗り物。飛行機も多くあった。大きな大きな空飛ぶ船でたくさんの人を運び、地球の裏側まで観光に行くこともできた時代がそこにあったのだという。今では到底考えられない、夢のような話だ。
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