楽園に明日は来ない

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 地球で行けない場所が一つもなくなった人類は、地球の外に行くことに目を向けるようになったという。  宇宙の、別の惑星に人類が住める場所はないか。  住むまではできなくても、観光旅行が楽しめるようにならないものか。  人々は宇宙開発に精を出し、次から次へとロケットを飛ばし、地球の外にある大地――月や火星のテラフォーミングを着々と進めていたというのである。  だが。平穏な日々は長くは続かなかったようだ。人類が月や火星に移住できる環境を整えるよりも前に、数多くの環境破壊と環境汚染が深刻化してしまったという。地球に安全・安心で住める土地がほとんどなくなってしまったのだそうだ。さらには、大量の宇宙ゴミが撒き散らされたことにより、地球と太陽の間を大量の塵となって遮るようになってしまったという。  太陽の光がなくなってしまっては、地球はどんどん冷えていってしまうことになるだろう。このままでは地球が生命が住むに値しない、極寒の世界になってしまうのも時間の問題だったらしい。そこで、ご先祖様達は、ある方法で人類を生き延びさせることにしたのだという。  それは、つまり――。 「……え?」  夢中になっていた本から思わず手を離して、私は声を上げた。今までどんな眉唾な話も、新しい常識だと思って柔軟に受け入れていっていた私であったが。こればかりは、到底信じられるようなものではなかったのである。  私は慌てて窓に縋りつき、外を見た。相変わらず、この世界は昼と夜の間で停滞したまま。鮮やかなオレンジ色の空が広がるまま。色鮮やかで美しい空の果ては、高い高い壁の向こうへと消えている。  あまりにも綺麗で、当たり前の景色。一体誰が、信じることができるだろう。 ――冗談でしょう?  私は茫然と、今まで何一つ疑ってこなかったその景色を見つめる他ない。 ――あの空も、太陽も、全部全部全部……シェルターの中に作られた偽物だっていうの!?  本には、こう書かれていた。  生き残った人類は地上の食料や植物などをかき集め、地下にシェルターを作って閉じこもることで生き延びたのだと。  暖房と冷房を完備し、拾い地下空間の中に人工の太陽と月と星を作り出し。人々には、嘘の知識を子孫に伝えていくように強制したのである。科学の進歩や、偉い人たちの大きな過ちによって地上が滅んだなんて事実は、あまりにも都合が悪かったものだから。  政府に脅された人々は、子孫代々に渡りニセの知識を伝え続けてきたのである。二百年が過ぎ、本当のことを知る者が誰もいなくなった時、嘘は全て真実に取って代わられたのだ。  この世界はいくつもある地下シェルターの中などではなく、地上であると。  あの太陽も月も星も全て本物であると。  高い塀に見えるのは、文字通り屋内の壁。その向こうには本当に何もないけれど、そんなこと人々は知らなくていいのだと。  そして、そんな太陽が傾き、夕焼けの世界がずっと続くようになったのは――。 ――ま、まさか、私達……。  私は悲鳴を上げ、本を持って書庫を飛び出したのだった。
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