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大竹建築に小切手帳を渡してから半年が過ぎた。
「ありがとうございました。」と、担当者の坂本は言い、積立の通帳を社長夫人で経理の大竹良子に渡した。
今日は月初の集金で、株式会社大竹建築の会社事務所に来ている。
幸いにもこの半年間、懸念されたような資金が不足するような事態にならず、仕事も順調で、さらに忙しそうにしている。
(あまり長居しても迷惑かな)と思い、
「それではこれで失礼します。」と言い、席を立った。
「ちょっと待って!悪いんだけど帰るついでに、そこの通りの角にあるポストにこれを入れてきてもらえない?」と、封筒の束を渡された。
見ると、封筒の束には請求書と判が押されてあった。
「分かりました!いいですよ。」と言い、その請求書の束をカバンに入れ会社を出た。
『ピリリリ・・ピリリリ』大竹建築を出た瞬間、携帯に着信があった。
表示を見ると『酒井』とあり、上司の副支店長からの電話だった。
「坂本です。お疲れ様です。」と言って、電話に出ると、
「お疲れさん。今大丈夫か?今日終わったらな、支店長が飲みに行くぞと言ってるから、予定を開けておけよ!」と言われた。
「えっ!?」とは言ったものの、拒否権はなく、「分かりました。」と言い、電話を切った。
(なんだよ・・・月初の金曜日くらい早く帰らせろよ)と思いながらも、自転車に乗って支店に戻った。
支店に戻りカバンを開けた瞬間に気が付いた。中に入っている封筒の束を見て坂本は、慌てて自分の通勤用のカバンへと入れた。
(帰りに自宅の近くのポストに投函すればいいか・・・)
仕事が終わり大事にカバンを持ち、いつもの居酒屋に同僚と向かった。しばらくすると、上司の酒井副支店長と門瀬支店長がやって来た。
全員が揃ったところで「カンパ~イ」となり、和やかに会は進んだが、支店長がビールから日本酒に切り替え、しばらくすると目が座り、いつものようにお説教タイムが始まった。
今日のターゲットは誰になるのか・・・皆がビクビクと支店長の様子を伺っていると、
「坂本~!」と、目が座った支店長が、こちらを見据えた。それからは地獄の始まりだった。
普段の仕事振りを非難され、あれがダメだ、これがダメだと、散々に言われ、さらに飲みが足りないと、日本酒を飲まされ、なんとか耐え抜き解放され、やっとの思いで自宅の駅の改札を出た時に気がついた。
カバンを持っていないことに・・・
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