請求書

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一瞬にして酔いも、気持ち悪さも吹き飛んだ。 急いでタクシーに乗り、飲み会をした店へと向かった。 店に着くと準備中の立て札が掲げられていたが、中は電気が点いている。幸い鍵はかかっておらず『ガラッ』とドアを開けると、店の中には顔馴染みの店主がいて、驚いた顔でこちらを見て、 「どうしたの?」と、聞いてきた。 「すいません。さっき飲んでた時に、カバンを忘れたみたいなんですけど、ありませんか?」 「カバン?」「忘れ物でカバンなんかあったか?」 店主は奥で洗い物をしている妻に聞いた。 「いえ、さっき片付けたけど、何もなかったわよ?」 と、洗い場から奥様は顔を出して言った。 坂本は背中に冷たいものを感じ、(ここじゃないとすると、どこかで落としたのか?失くしたのか?電車の中で置いてきてしまったのか?それとも職員の誰かが気がついて、持って帰ってくれているのか?) 自宅の最寄りの駅までどうやって帰ってきたのか、気持ち悪さに耐えていた坂本には詳細な記憶がない。 その日はそのまま帰宅し翌日は休みなので、朝一でJRに遺失物として問い合わせをしたが、今のところ自分のカバンが届けられているという報告はなかった。週末を悶々とした気持ちで過ごし、週明け出勤してみたものの、誰からも自分のカバンを持っているということは言われなかった。 カバンを失くしたなどと言えば、上司に何と言われるか分からない。その日午後、もしかしたらカバンの中の請求書が届けられているかもしれないと思い、大竹建築へと向かった。 「こんにちわ~!」努めて明るい声で、坂本は会社のドアを開けた。 「あら?今日は何かあったかしら?」奥様がこちらを振り向いて言う。 (請求書のことは何も言われない。) 「いえいえ近くまで来たものですから、寄らせて頂きました。」 「じゃあどうぞお座りください。今コーヒー出すからね。」と言って、 奥様は冷蔵庫から缶コーヒーを出し机に置いた。 「ありがとうございます。」と言い、坂本は社内の様子や、奥様の様子を伺うものの、請求書が戻ってきている様子はなかった。 奥様には「請求書を入れたカバンを失くした」などとても言えない。 (きっと誰かが投函してくれたに違いない。) 坂本は自分自身にそう言い聞かせた。 その電話が鳴ったのは、月末も間近に迫った午後だった。 「ピリリリ・・・ピリリリ・・・」自身の携帯が鳴り、画面を見た坂本はドキッとした。表示には大竹建築とある。 「もしもし?坂本です。」 奥様から大至急相談したいことがあるから来て欲しいと言われた。
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