請求書

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「こちらが小切手帳となります。」 埼玉県南信用金庫の坂本は、お客様である株式会社大竹建築の社長夫人で、経理を担当している大竹良子(おおたけよしこ)に、持ってきた小切手帳を渡した。 嬉しそうに小切手帳を受け取ると、 「これでやっと1人前の会社になれた気がするわ。ありがとう。」 と言い微笑んだ。 「早く手形も振り出せると資金繰りも楽になるんだけどね。」 通常金融機関では、ある程度の取引実績や、預金量などの背景がなければ、当座を開くことはできません。小切手や手形を振り出す(支払う)ということは、それを受け取った人間が金融機関で現金化するので、当座にそれを支払うことができるだけの残高がなければ、決済することができず不渡りとなります。不渡りとなると社会的信用を失くした会社は倒産とすることになり、その手形・小切手を受け取った会社も現金化できなければ、手元に資金がなくなり同じように倒産する可能性が高まります。そのため金融機関では、安易に当座を開設させることはありません。逆な言い方をすれば、当座を開設できたということは、金融機関に認められたということになります。 この株式会社大竹建築は創業して5年。担当者の坂本はこの会社を担当して1年になろうとしていた。 「このところ大手のゼネコンさんのお仕事が多くて忙しいのは嬉しいけど、支払いが大変なのよね・・・」 と、社長の奥様は苦笑いし、ため息をつきながら言った。 「まだ保証協会も枠が多少残っておりますし、何かありましたら相談してください。」 担当者の坂本は安心させるように言ったが、まだ設立5年で、会社の事務所や社長の自宅も賃貸のため、担保として提供できるような土地や建物がなく、保証協会という公的な保証を付けないと、なかなか融資することができないのが実情で、その保証協会にしても、1会社にいくらまでという、保証ができる金額の枠というものがある。 社長の奥様が心配していることを説明すると、売上が増えるということは、仕入れの支払いも増えるということです。通常、支払いのほうが早く、売上の入金が遅いのが一般的です。この会社の場合、支払いというのは、職人への人件費や工事を行うための資材の調達費などです。売上の大手ゼネコンからの入金は、きちんと工事されているかなどの検査を経てから支払われます。例えば100万円を翌月支払う、しかし入金の200万円は翌々月となれば、100万円を先に用意しなければなりません。 冒頭社長夫人の「手形があれば支払いが楽になる」という意味は、手形を支払先に渡しても、3か月先・4か月先の期日までは、当座の残高から引き落とされることがないので、資金繰りにも余裕ができるという意味です。
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