称賛の続き

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しまった。 完全に失念していた。 どう考えても自分がこの状態になったのは数日前の自分の浅はかすぎる行いのせいであったのに、先程までの余りの思いがけない幸福、三千回輪廻転生を繰り返そうとも起こり得るはずがなかった僥倖に我を忘れていたのだ。 自分が幽霊であること。 何故そうなったのか。 それはたった一つしか思い当たる原因はない。 麗しのクラスメイト、坂木忍君への手紙を落としたからである。 そして今まさに、その手紙が読まれている。 美貌の坂木忍君ではなく、クラスメイトの、クラスのスクールカースト頂点に君臨する美人、麻生さんとその友人二人によって。 「つーか、あのチビメガネどの面下げてこれ書いたんだろね?キショ過ぎ」 チビメガネとは私のことだろう。 私は身長百四十五センチと小柄であり、眼鏡をかけている。 「貴方は風、貴方は音楽だって、痛すぎ。何か可哀想になってきた」 「つーか、長くない?よくこんなに書けるね。細かい字でびっしりとさー、読むだけでメンドイ」 「あのブチメガネ何考えて生きてたんだろね?つーか、何が楽しくて生きてたんだろ?」 チビメガネなのか、ブチメガネなのかあだ名統一しなさいよ。 ややこしい。 まあ、そんなことはどうでもいいけど、何が楽しくて生きていたなんて余計なお世話だ。 少なくとも私は毎日が楽しかった。 特に高校に入学してからのこの一年と四か月は充実の日々だった。 本当の美を知ったから。 水沢愛、享年十七歳。 特に辛いことも苦しいこともなく、素晴らしいこともなかった一生に人には見えるだろうけど、私はそうじゃないって知っている。 坂木忍君という、どれだけ礼賛しても足りない人に出逢えることができ、その彼をずっと見つめることができたなんて、どれほどの幸福だったのだろう。 彼と同時代に生まれたこと、その彼の一番美しい時期であろう十代の終わりを目に焼き付けられる幸せ、日々移り変わっていく景色のようにそれを遠くからでも眺められた贅沢な時間。 これ以上の人生なんて何も望まない。 ましてや、今日幽霊になったのをいいことに、彼を真正面から見つめられた。 宙に浮かび、教室の椅子に座り淡々と授業を受けている彼を神からの視点の如く見下ろすことができるなんて。 まるで神様が寂しい生涯を送った私に下さった褒美だった。 嫌、褒美なんぞじゃ生ぬるい。 来世も、そのまた来世も七千年後も人間じゃなくたって構いやしない。 ありがとう、生きてて良かった、嫌、もう死んでるんだけどな、な境地に至り、あっという間の放課後だったわけだけど、このような公開処刑が待っていたのか。 まあでも、クラスメイトがいなくなってから三人だけで開封してくれたんだから、そこは感謝すべきか、な。 間違っても坂木君に届けてくれませんように。 後生だからお願いしますと私は手を合わせる。 「綺麗な夕焼け空を見ていると貴方を思い出す。貴方がこれを見ていると言うことが嬉しい。本当に怖い。サイコパスじゃない?」 「ホントにね。身の程を知れって。メガネブスは乙女ゲーでもやってろっての。相手にされるとか思ってたんかね?」 「まさかー。あんなブス五組の加藤ですらお断りでしょ」 「わかんないよー。ほら結婚詐欺とかで捕まる女ってさ、意外とブスじゃない?何でこんなんで結婚できたのって女いっぱいいるよ。まあそういう場合夫婦そろってブスでさ、連れてる子供もブスなんだけどー」 「みすぼらしいよね。ブスとブス掛け合わせるとかさー。でもブサイクが美人連れてると金持ってんだろなって思うよね」 「あー、思う、思う」 「結局世の中金かー」 「ねー」 そんなわけないでしょ。 あんなぺらぺらした紙一度だって思い浮かべたことなんかない。 例えばそのお札に坂木君が印刷されてたら一日中眺めていられるだろうけど。 一日どころか一生見てられるわ。 あー、あの世に行くならせめて坂木君の写真一枚でもいいから持っていけないものでしょうか。 嫌、記憶、この記憶さえ持っていけるなら、天国だろうが地獄だろうが構わない。 脳内再生余裕だから。 というより、もうずっとこのまま幽霊でいたい。 坂木君をただ見ているだけ、そんな素晴らしいことがあるだろうか。 嫌、ない。 これ以上のものなんて何も。 今までの人生特に悪いこともしなかった、いいことも勿論していないけど。 親より先に死ぬなんて親不孝だとは思う、それくらい。 お父さん、お母さん、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、お姉ちゃん。 悲しんでいるだろうな。 もう皆に会えないなんて辛いよ。 お母さんのカレーもう食べられないんだな。 お父さんがたまに買ってきてくれる丁稚羊羹も。 お祖父ちゃんがたまに入れてくれるカモミールティーも。 お祖母ちゃんの部屋に行くと必ずあるルーベラも。 お姉ちゃんのシール集めに協力したジョージアも。 あれ、食べ物ばっかりだ。 他にも思い出あったはず。 思い出せ、思い出せ。 あ、家族全員で行った宮島楽しかったな。 二泊三日ずっと雨だったけど。 そういえば金沢に行った時も、日光に行った時も、道後温泉に行った時も雨だった。 懐かしい。 もう二度と行けないんだ。 仲のいい家族だったと思う。 お母さんには心配かけたかな。 中学の入学と同時にこっちに引っ越してきて、友達を作ることができなかったからいつも一人だった。 イジメられたりはしなかったから平気で学校行ってたけど、学校のこととか友達のこととか何も話さなくて、親としては辛いものがあったんだろうな。 「これどうする?坂木君に渡す?」 「捨てといてあげるのが良心じゃない?」 それでお願いします。 是非お願いします。 「おい」 知っている。 この声を、手紙にも書いた。 宵闇を思わせる、彼方からの声とか、何とか。 そう、坂木君は声まで美しいのだ。 透明感があって、澄んでいて、でも強くて、声にまで寸分の狂いがないのだ。 思い描いていた理想をいともたやすく超えていく、世界で一番美しい人。 ううん、世界一なんて言葉じゃ全然足りない。 そんな陳腐な言葉では彼には追い付かない。 彼はそんな平凡なありふれた語彙を光の速さで置き去りにして駆け抜けていく。 いつも彼の前では言葉など周回遅れになってしまう。 美しい、ただ美しい光そのもので、闇そのもの。 彼は世界なのだ、ずっとそうだったのだと気づく。 桜が舞う入学式のその日から。 ううん、彼がこの世に生まれ、私が生まれた時から。 「あれ、坂木君、帰ったんじゃなかったの?」 「それ、俺に来たんだろ」 いつの間にいたんだろう。 彼はいつの間にか背後にいた。 私は彼と並ぶのが申し訳ないのと、彼を真正面から見るチャンスを逃すまいと、麻生さん達が座っている椅子の真後ろを陣取る。 何て美しいの。 麻生さん達は座っているため、坂木君からは見下ろされているわけだけど、私は浮いているので、彼と目線は同じだ。 それがこんなにも誇らしい。 彼は右手を差し出した。 大きな手だ。 彼の身長は百八十五オーバーだから麻生さん達からしたら、一対三でもまるで大リーガーが剛速球を振りかぶるかのごとくの威圧感を感じているのだろう。 先程とは違い、明らかに彼女達の声や表情には辛辣さというどこに飛んでいくのかわからない銃弾ではなく、代わりに何やらおもねるような可愛らしい先端にハートでもついているような矢があった。 「俺のだろ」 「えっと、坂木君、受け取るの?」 「俺に来たもんだから、俺が受け取るのは当然だろ」 「えっと、だって水沢だよ?知ってるの?」 「人に来たもん勝手に開けるな。返せ」 「え、だって、わかってる?水沢だよ。あの子があんなことになって可哀想なのはわかるけど」 「返せ」 麻生さんは便箋を封筒に入れ坂木君に渡した。 坂木君はもう用はないとばかりに教室を出て行く。 麻生さんはあっけにとられている。 私も最早この教室に用はないので、坂木君の背中を追いかける。 彼はどうやら帰るわけじゃないらしい。 階段を上り屋上へ出て、手紙を読みだした。 彼が手紙を読む間、私は彼の完璧な横顔を見ていた。 どうやったらこれほど美しいデザインが出来たのだろう。 もはや神の手だとしか思えない。 きっと神様しかこんなことできない。 国宝級イケメンなんて言葉が簡単すぎる。 そんなもんじゃない。 世界中の称賛の言葉をどれだけ並べたとしても、彼のところまでは行けない。 美しいが過ぎる。 やりすぎだ。 半分にすべきだ。 嫌、半分にしたって、恐らく百億人分だ。 違う、それでも足りない。 世界を何週もする、また世界を始める。 貴方はそれだけの人だ。 貴方の美はそういう美だ。 私は正しく狂ってる。 でも狂わざるを得なかった。 手紙にも書いたけど、貴方と出逢って初めて生まれてきたことに、今この瞬間生きていることに感謝したから。 そうしたらね、毎日が輝き出したんだよ。 何を見ても貴方を思い出すの。 貴方は満開の桜の花びらが散り行く瞬間でもあるし、風に揺れる白い一輪の花でもある。 澄み切った青空でもあるし、赤く染まっていく青と赤の境界線のような夕焼け空でもあれば、たった一つだけ星が囁くような夜空でもある。 貴方は綺麗なものの全てなの。 こんな気持ちを教えてくれただけでもう、私は貴方に一生どころか、来世も、そのまた来世も百億年後までありがとうなの。 「で、これホントにあんたが書いたわけ?」 坂木君が隣に浮かぶ私を見つめ言う。 えっと、何これ? 「水沢で、いいんだよな?」 え? 「水、沢?」 何そのちょっと不安げに揺れていますって顔。 そんなの見たことない。 そんな顔もできるの。 凄い、凄すぎる。 美形の有効活用。 これ以上ない破壊力。 ああ、今私もう死んでもいいわ。 ああ、もう死んでいるけど。 「坂木君、私が見えるの?」 「ああ」 「えっと、いつから?」 「朝からずっと」 死にたい。 嫌、もう死んでんだけど、死にたい。 最早手紙を読まれたことよりずっと恥ずかしい。 今日気が付けば学校にいた。 最後の記憶は白い車がとんでもないスピードでこっちに来ていて、そこで途切れていた。 そういえば走馬灯とか見なかったな。 そんなことを考えていたら坂木君がやって来て、何事もなく授業が始まり、それからは至福の時間だった。 美しい彼をあらゆる角度から見た。 時に余りの美しさに悶絶し、頭を抱え、天を仰いでいたのを彼は見ていたのだ。 今日一日ずっと。 「・・・・・・・・・申し訳ありません・・・・・・・・・・」 土下座をしようにも浮いていて上手くできない。 気持ち悪いにも程がある。 何ていう見苦しいものを見せてしまったのだろう。 そんなサイコで幽霊な女からこんな長い手紙を貰い彼はさぞや恐怖しているのではないだろうか。 顔には全く表れていないけれど。 感情が美に追いつかないのだろう。 ああ、でも苦悩する坂木君、美しいんだろうな。 見たい、どんな姿も見たい。 ただ貴方を見ていたい。 今日一日じゃ足りない。 ずっと見ていたい。 一生じゃ足りない。 一人分の人生じゃ全然足りないよ。 あと七百億回この人生を繰り返してよ。 「よくこんな長い手紙書けたな。こころの先生の遺書くらいあるんじゃないか?」 「えっと、先生の遺書は、文庫本でいうとこれくらいじゃないかな?」 私は両手を使い先生の遺書の厚みを表現する。 そんなことより、そんなことより。 「坂木君、こころ読んだんだ?」 「ああ」 くー。 言葉にならない。 美しい子が夏目漱石の文庫本持ってるとか、最早それは宗教画を超えている。 超越、恐悦至極。 「あんたさ、これだけ俺を賛美してるのに、好きの一言も書いてないって何でだ?」 は? 好き? 何それ? 理解できない。 でもこれはもう私だけの問題じゃない。 勝手に終わらせられない。 これは会話だ。 世界一美しい男の子との最初で最後の会話だ。 なら、私のありったけで答えなくてはならない。 私は今日、このために今まで生きていたんだから。 もう怖いものなんて何もない。 命は既に取られている。 失うものなど何もない。 言う。 「好きなんて烏滸がましすぎるよ」 「は?」 世界一かっこいい「は?」を貰いました。 声まで最高なのやめてほしい。 どっちかにして。 大体かっこいいわ、美しいわ、背は高いわ、声はいいわ、何なの一体。 一人で全部持ちすぎなんだよ。 一個にしてよ。 何処まで行くのよ、たった一人で。 一人で走るの辛いでしょ、伴走者もいなくって。 美という有り得ない孤独。 それが彼を益々美しく、この世ならざる者のようにする。 いっそ人外だと言ってくれて構わない。 人でない魔性だとそれなら納得できる。 貴方が人なんて納得できない。 それほどに魅せられ、加速する。 貴方は私の手には負えない。 背負えない。 そう、それこそ死んでるくらいが丁度いい。 生者と死者でやっと向かい合える。 「坂木君、私ね。貴方を見た時生れて初めて生きてて良かったと思えた。 生まれてきたことに感謝した。 貴方がこの世にいることに、貴方がいるこの世界そのものに感謝した」 「それはさっき読んだからわざわざ声に出さなくてもいい」 「うん。でも言いたい。貴方の顔を見た時、余りに美しくて、身体が震えた。 貴方みたいに綺麗な人を初めて見た。 その日から毎日夜寝る前に、神様だか仏様だかわかんないけど、ただ願った。 貴方がずっといてくれますようにって。 貴方が損なわれませんようにって、貴方がずっと元気で暮らせますようにって。 貴方を見て、今まで自分が見てきたものに何の価値も見いだせなくなった。 貴方の美には欺瞞がなかった。 貴方は偽物じゃなかった。貴方の美には嘘がないの。 貴方はただいるだけで美しいの。 美しいという概念なの。貴方のおかげで全てが覆ったの。 貴方が本物過ぎて、私ね、今本当に理解したの。 私ね、貴方の顔を見るために生まれてきたんだって、今はつくづくそう思うの。 だから今嬉しくて死にそうなの。もう死んじゃったけど死にそうなの。 でも、後悔はないの。 百年生きたって、千年生きたって、貴方を見れなかった人生ならそんなの価値なんかないの。 一生に一度に心が震えるような感動なんてきっと何回もないの。あるはずがないの。なのに私それが何度もあったの。 貴方を見ているだけで、毎日が大団円の連続だった。 終わらなかった。終わらなかったんだよ、坂木君。貴方はそう、名前まで綺麗なの。坂木忍、坂木忍。私何度も書いたの。ノート一杯に書いたの。 ねえ、言葉が足りないの。何て言ったらいいのかわからないけど、貴方に出逢えて、貴方を知って、ねえ」 「水沢」 「まだ足りないよ」 「続きは今度聞く。だからさっさと目覚ませよ」 気が付けばぼんやりした視界にお母さんらしき人がいた。 どうやら私は事故にあって一週間も意識がなかったらしい。 夏休みは入院生活で潰れた。 二学期も数日が過ぎ学校に行くと、麻生さん達が生暖かい目でおはようと言ってくれた。 あれは夢だったのだろう。 なんて美しい夢だったのか。 最後に見た坂木君は儚くて幻みたいなくせに、空に消えていくような繊細さとは違い、地に足つけた強靭な意思を感じさせた。 まるでずっとそうだったみたいに、優しく、暖かく、赤くて青くて、体温みたいな、なのに水みたいに流れていく、どっちでもある。 それは当然だ。 彼は全てなのだ。 世界そのものなら、そうなるべきだった。 彼は朝で、昼で、夜で、夢なのだ。 最初から、ずっと。 授業が終わり、鞄に教科書とノートを入れていると、誰かが私の左に立っているのがわかった。 「続き」 彼の声が降って来た。 顔があげられない。 世界一見たい顔なのに。 「夢、じゃなかったの?」 「夢でたまるか。あんな面白いこと」 私は顔を上げる。 見下ろす彼の漆黒の瞳。 風を許されるようなさらさらとした黒髪。 どれだけの技術を尽くしたらこれほどの美を再現できるのか、途方もない鍛錬と洗練。 究極の美、美の極致。 ああ、もう、もどかしい。 どれだけ言葉を費やしても、貴方を称賛するに足りない。 世界一、世界。 私のたった一人。 歩き出した彼の背を私は追う。 背中までかっこいいとかやめなさいよ。 どれだけ一人で背負うつもりよ。 この世全ての美を背負う覚悟が貴方にはあるの? ああ、もう本当に、美しい人。 「続き」 「えっと、続きって?」 彼が私に並ぶ。 私達の視線は簡単には合わない。 私は見上げ、彼は見下ろす。 正しく月と人の距離。 「取りあえず、手紙に書いてあったこと全部してやったらいいのか?」 「えっと、何書いたっけ?」 「坂木君が紙パックのジュースをストローで飲んでいるところが見たいとかなんとか」 「・・・・・・・・・そんなこと書いてましたか?」 「ああ。あと伊右衛門のほうじ茶のペットボトル飲んでるとこが見たいとか、ポテトチップスの袋を開ける坂木君が見たいだとか」 つまらなさすぎる。 何書いてんの、過去の私。 「憶えてないのか?」 「夢中で書いてて。何か書きあがったら傑作書けたなって思って、捨てるの勿体なくなって、鞄に入れて、気が付けば落としてて、慌てて学校戻ったら車が突っ込んできて」 「生きてて良かったな」 「うん」 坂木君が噴き出す。 右手で口元を押さえる。 笑ってる、そんな顔、もうそんな顔って。 「顔が天才」 「え?」 「あんたあの日顔が天才とか言いながら宙に浮かんで両手で顔覆ってバタバタしてただろ。あれ、可笑しくってさ、授業中笑いそうになるの必死でこらえてた」 えー。 嘘。 そんな顔に全然見えなかったよ。 「手紙も悪いけど笑った。坂木君が読んでいたら死ねる本とか書いてあったから、何冊か読んだ」 ひー。 もう嫌、でもこの坂木君見れたんだから悔やむことなんか何もない。 でももう死ねない。 やっぱり私、彼をずっと見ていたい。 「続き」 「えっと、もう書けるだけ書いたと思うんだけど、やっぱり私にとって坂木君は光でもあり、闇でもあり、火であり水であり土であり風であり」 「そういうのじゃなくて、どう思ってんの?」 「どう?どうって、どう?」 「嫌、知らねえよ。お前のことだろ」 「どうって、美しい、素晴らしい、完全だ、極めている、貴方が世界一、最も優れている、貴方が、貴方は」 「好きなんじゃねえの?」 好き。 好きって何だ。 好き? 私が坂木君を好き? 「少なくとも俺は宙に浮かんでいるあんたを見て、何かわかんねえけど、これ一生見てられるなって思ったよ」 好き、好き、好き、ああ、好き。 好き、ああこれだ。 私は坂木君を好きなのだ。 ああ、そうだ。 貴方は、貴方が私に取って世界そのそのものなら。 貴方は私の、ああ、それ以外何があるというの。 「貴方は恋」 恋そのもの。 「手紙、落として良かったな」 「うん」 簡単だった。 貴方を表現するのにたった一つの言葉で良かった。 恋、貴方は恋。 私の恋。 称賛じゃ足りなすぎる、恋。
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