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俺は貨物室のテリーに話し掛ける。
「テリー? 聞こえるか」
「何ですか?」
夕焼け空によって、橙色に染まった太平洋の海、コントラストで黒く染まる日本列島を眺める。アメリカ大陸の方が遥かに広大なのに、太平洋に浮かぶ秋津洲は物凄く巨大に見えた。
俺達が乗る輸送機の背後には夜闇が迫っているだろう。俺達の乗る輸送機が日本に夜を運んでいるようだ。
「なんでこの戦争が神話になると思った?」
「思うんじゃありません。神話になるんです」
「しかしなぁ、テリー。この大戦では何千万人もの尊い命が犠牲になったんだ。神話なんて甘ったるいものにはならないと思うぞ」
「いや、なりますね」
テリーは譲らない。
「1000年、2000年と時間が経てば、この大戦だって皆、教科書でしか知らなくなるんです」
俺はその通りだと思って黙った。
「ルーズベルトはキリストを使って、我々を戦争に参加するように宣伝していましたよ」
「ジョニーよ、銃を取れ! かい?」
「あれは第一次世界大戦だろ?」
「どうでもいいよ、そんなの」
仲間達が俺達の会話に混じった後、テリーは俺達に教える。
「日本の天皇陛下も、戦争が終わるまでは日本人達の神だったんだ」
俺はテリーが「ラグナロク」と言った意味が少しだけ悟れた。
「神々の黄昏かい?」
「運命ですよ」
「しかしキリスト教は残っているし、天皇も人間宣言したんだ」
「それで?」
「神は滅びるんじゃない。人間の下に帰ってくる。それが神の運命なのさ」
俺が言うと、テリーは何も言わなくなった。
夕焼け空に染まった、灰色の滑走路が見えてきた。
この広大な海や空や陸地を輸送機から眺める度に、自分達人間が如何に小さな争いに始終しているか痛感させられる。
テリーにそう言いたかったが、たぶん貨物室の座席で寝ていただろう。
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