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3
日は沈もうとしていて、夕焼け空も暗くなってきた。
アメリカでは、今から夜が明けるだろうが。
貨物室に居る上官のスコットが皆に訊く。
「物はちゃんとセットしたか?」
「はい」
背後から箱を開ける音、仲間達が箱を床の上で引きずる音、ハッチが開く音などが僅かに聴こえた。
ハッチが開くと、強い風が機内に入って来てバランスを少し崩すが、俺が操縦桿を握ってしっかりと安定を保っているから大丈夫。
貨物室で作業する仲間達の会話は、無線を介しているからよく聴こえる。
「東條英機もこうなっちゃおしまいだ」
「俺達もいずれこうなるのさ」
「墓に入りたかっただろうな」
「なら真珠湾なんかしなけりゃ良かったんだ」
「俺達は勝った。日本は負けた。それだけだ」
「もう、そろそろ良いだろ」
「了解」
「投棄しろ」
「了解」
「あばよ、東條英機」
他にも5、6人のA級戦犯の遺骸が箱の中に入っていたが、そんな連中の名前、現場の俺達が全員暗記しているはずもなかった。
俺の任務はあくまで輸送機の操縦だから、遺骨が海上に投棄する様子などは確認出来ない。それはスコットの仕事だ。
俺が見ているのは、日が暮れかかって夜と夕を分かつ、太平洋の海と空だけ。
「箱ごと捨てた方が良いんじゃないか?」
「海を汚す必要は無い」
A級戦犯の遺骨より敵国の海の方が大切になっていた。
「終わりました」
ハッチが閉じられる音が聴こえた。風の闖入が失くなり、右手に握る操縦桿が軽くなる。
「よし、出すんだ」
「了解」
俺は輸送機を旋回させる。
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