[後]エピソード01

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少し緊張が抜けたところで、ニニは本題を切り出す。 「とりあえず役立ちそうなモノは持ってきたから、このまま走り続けて」 「そのつもりだけど、問題はロックカットか、クロップスかどっちへ行くべきかでね……」 「まだ診てないから何とも言えないけど……たぶんクロップスね……今日はマヤ先生が当番のハズだし、堅実だと思う」 「わかった」 文字に起こせば長いが、実際にはコンマ数秒の短いやりとりである。 時速100kmで走っているということは、1秒で進む距離は27m。ロックカットまでの距離はあと2km(2000m)もないから1分強で着いてしまう。 そこで停まるか否かを決めるのに1秒も掛けてる暇はない、というのはもちろんそうなのだが、それが出来てしまうのはニニとスロが尋常ならぬ技量の持ち主であることの証左に他ならない。 「で、ニニはどうする?」 本題が一段落したところで、今度はスロがもうひとつの本題を切り出す。 というのも、今に致るまでニニはDD276の隣を並行して飛んでいるのだ。 先程ニニはスロとの会話の中で『まだ(ニーナちゃんを)診てないから』と言ったが、そもそもこれでは診れるハズがない。 いくらニニが比類なきレベルで優秀な魔女と謂えども、またいくらフライトブーツが改良を重ね初期形に比すれば大幅な消費マナ量の低減が図られたとは謂え、飛行しながら遠隔診断を行うのは技術的に不可能。 このままでは"まだ"どころか当分先、クロップスにたどり着かない限り、ニニがニーナちゃんを診ることはできない……。 しかし、そんな状況であるにしては、スロの念話のトーンは軽かった。 まるでニニの答えがわかっているかのような、少しイタズラっぽい投げかけ。 そして、ニニもまた軽く返す。もちろん、その答えはスロの予想通り。 「んー、とりあえず窓からお邪魔しようかしら。確か後ろの窓開いたよね?」 「向かって左側ならね」 「左側ね。それじゃあ、なるべく54kt…じゃなかった、100キロ定速で走れる?」 「よしきた」 林鉄のクホハは換気や安全確認等の目的のため、前面窓(今は後面)が一段下降式になっている。 ニニはそこから車内に入るつもりだ。
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