[後]エピソード01

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「そういうことだから、さみちゃん、協力頼む」 「ええっ?!」 急に話を振られて慌てるさみちゃん。 確かに、いくらスロの腕がよいとはいえ、きっちり定速で走るにはさみちゃんの協力が欠かせないのだが……。 「む、無茶ですよ!そんな…あの窓の小さな枠に飛び込むなんて……しかも100キロなんて低速で!」 さみちゃんが慌てるのも無理はない。 前面窓はたかが60cm四方、降下幅は40cmほどだから、縦横40×60の隙間を飛びながらくぐることになる。 そして100km/hという速度は、列車にとっては高速であるが、200-300km/hで飛ぶのが普通の飛行機にとってかなりの低速である。というか、失速限界スレスレと言っても過言ではない。 しかし、慌てるさみちゃんを余所に、ニニもスロも涼しい顔である。 「大丈夫よ、空母に着艦するようなものだもの」 「鳳翔に烈風で降りるよりは高速だもんな」 慌てているのがアホらしくなるぐらいのんびりした調子で二人。 確かに25kt(46km/h)の鳳翔に失速限界100km/h弱の烈風艦戦で着艦するよりは速度差はないのだが……。 「着艦って、屋根の下ですよ?」 その通り、三段式甲板の二段目に着艦するようなものである。 かの赤城、加賀とて『着艦は最上飛行甲板』だったのだから、その難度は推して知るべしであろう。 まして、空母ならアレスティングワイヤーがあるが、客車にそんなものがついているハズがない。 それでも、ニニとスロは全く動じない。 「そんな心配しなくて大丈夫、飛行訓練のお師匠様はあの梨菜ちゃんなんだから」 「ニニは武政さんとの格闘戦でも互角の腕だったんだから」 飛行訓練や格闘戦の腕前が着艦に対する自信の根拠になるのかどうかは微妙なところだが……。いずれにしてもこうも自信に満ちあふれている二人に接していると、だんだん毒されてくるというか、そんなものかという気がしてくるから不思議なものである。 「わ、わかりました。じゃあ次の直線で……」 「よろしくね!」 言うが早いが、ニニは少し身体を起こしてすっと減速して離れていく。 「あ…あれ?」 「さみちゃん、やっと気付いた?フライトブーツは飛行機じゃないんだって」 フライトブーツは揚力の90%以上を魔法力(マナ)に頼る仕組み。小さな翼もついていることにはついているが、10%弱の補助以上の役割は果たさない。 そしてマナのコントロールによる制御の他に、身体を倒したり起こしたり曲げたり伸ばしたりといった姿勢変更でも制御できるという特性がある。 つまり、飛行機より遥かに低速での飛行も、アクロバティックな動きも朝飯前という訳である。 「100キロも出てたら、あれには十分速い方だよ」 何となく、ニニとスロが妙に落ち着いている訳がわかった気がするさみちゃん。 ……しかし。 「でも…それでも、窓枠をくぐるのは別問題ですよね……。あんな狭いところ……」 「うーん、まぁニニなら大丈夫でしょ」 そこは相変わらず根拠がないのか、と何だか力が抜けるさみちゃんであった。
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