Ⅲ 花鳥風月のあずまや

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Ⅲ 花鳥風月のあずまや

 飛行艇のライセンス試験は王都にある指定された飛行場で隔月ごとに行われるのだという。この日のために地方の飛行場で訓練を積んできた若者たちが集まり、ライセンスを得るために試験にのぞむ。  母がいうには、シィバ・ヴェロニカバードにもその案内が届いたのだという。だが、それなら手紙ですませるはずだ。わざわざ王都の役人が彼を訪ねてくる理由とするには弱すぎる。  アリーチェは首を傾げながらシィバの家へ向かう。ヴェロニカバード家はフィルベスタンの大地主の一族で、村長も多く輩出している。たしか今の村長もシィバの祖父の弟だったはずだ。  久々に訪れた彼の屋敷は、古いながらも相変わらず綺麗にされており、玄関前や庭先には雪のように真っ白な小さな花が咲き誇っていた。花鳥(ヴェロニカバード)……彼ら一族を示すヴェロニカの花が。  執事によって庭先のあずまやに案内されたアリーチェは白い花の絨毯を眺めながら嘆息する。王都の役人が滞在しているため家のなかで待つことはできないのだという。  たぶん、王都の役人は屋敷の応接間で丁寧な歓待を受けているのだろう。そのなかにシィバもいるに違いない……
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