Ⅲ 花鳥風月のあずまや

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「残念だけど、彼はこのまま馬車に乗って王都へ行くことになるだろうよ」 「え」 「ライセンス試験は来月だけど、その前に野暮用ができたみたいでね」 「やぼよう?」  フィリップの上品な姿からは想像できない単語に、アリーチェは顔を引きつらせる。 「そ。天使のミイラの件さ。どうやら遺伝情報検査の結果が出たらしくてね。まさか弟が王都に連れ出されるとは思ってなかったなぁ」  舐めるような視線を感じ、アリーチェは自分の身体をかき抱く。フィリップはそんな彼女の反応を面白がって更につづける。 「アリーチェちゃんは知っているよね? 十年、いや十一年前か……あのときシィバと木登りをして落ちたんだものね」 「そ、それは」 「ふたりとも無事でよかったよ。彼が翼を生やして、落下速度を落としたから、たいした怪我もなかったんだよね」 「……え」 「あのとき多くの銀色の羽根が木の下に飛び散っていたんだよ。回収したのは僕の父だ」  黙りこむアリーチェを前に、フィリップはうん、と満足そうにつづける。
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