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「フィルベスタンには稀に“翼持ち”が生まれる。特に古くからこの地に暮らす花鳥の一族はね。どうやらそのなかに、今回見つかった始祖……天使のミイラも含まれているらしい」
「じゃあ、シィバは?」
いまにも泣きそうな表情のアリーチェを見ても、フィリップは話を止めない。
「正真正銘の“天使”の末裔ってわけだ。国をあげて歓迎されるだろう……もう、ここには帰ってこないかもしれないね」
――フィルベスタンの旧家の息子が、天使の末裔だった。国王は立派な天使の翼を持つ彼を手元に置きたがっているという。研究者が研究対象として彼を求める前に保護するのだ、と。
そのことが国中に知れ渡ったら、彼はもうただのシィバ・ヴェロニカバードには戻れない。
目の前が真っ暗になる。アリーチェと一緒に空飛ぶみかんに乗ろうって誘ってくれた彼が、急に遠い存在になってしまった……
「そんな」
堪えていた涙が、ぽろりと落ちる。
そのとき。
ぶるんぶるんぶるるん! 轟音とともに、強い風が、あずまやの周囲で渦巻いた。
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