Ⅲ 花鳥風月のあずまや

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「フィルベスタンには稀に“翼持ち”が生まれる。特に古くからこの地に暮らす花鳥の一族はね。どうやらそのなかに、今回見つかった始祖……天使のミイラも含まれているらしい」 「じゃあ、シィバは?」  いまにも泣きそうな表情のアリーチェを見ても、フィリップは話を止めない。 「正真正銘の“天使”の末裔ってわけだ。国をあげて歓迎されるだろう……もう、ここには帰ってこないかもしれないね」  ――フィルベスタンの旧家の息子が、天使の末裔だった。国王は立派な天使の翼を持つ彼を手元に置きたがっているという。研究者が研究対象として彼を求める前に保護するのだ、と。  そのことが国中に知れ渡ったら、彼はもうただのシィバ・ヴェロニカバードには戻れない。  目の前が真っ暗になる。アリーチェと一緒に空飛ぶみかんに乗ろうって誘ってくれた彼が、急に遠い存在になってしまった…… 「そんな」  堪えていた涙が、ぽろりと落ちる。  そのとき。  ぶるんぶるんぶるるん! 轟音とともに、強い風が、あずまやの周囲で渦巻いた。
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