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Ⅰ 天使の伝説が残る村
「かつてフィルベスタンには、夏になると翼を持つ種族が舞い降りていた。彼らは渡り鳥のようにこの場所で羽を休め、人間たちと共存しながら半年ほど滞在していたんだ」
黒板に規則的に並ぶ文字の羅列が途切れると、授業とはまったく関係のない話がはじまる。アリーチェははぁと頬杖をつきながら、いつものように歴史教師の戯れ言に耳を傾ける。はるか昔、この世界にいたであろう有翼人種のことを。
「絶滅したとされる彼らについてははっきりしていないことも多い。学者の間でも実在せず想像の産物じゃないかと疑う者もいるからだ。だが、フィルベスタンで発掘された女性のミイラを調べたところ、背骨から翼が生えていたような痕跡が見つかっている。これが何を意味するか……っと、時間だな。今日はこれまで」
女学校全体に響くチャイムの音と時計の針を確認し、教師は満足げに頷き、終わりを告げる。静まり返っていた教室はあっという間に生徒たちの賑やかな声に塗りつぶされ、アリーチェもふぅと大きく息をつく。
「先生も物好きだよねー。翼あるミイラの話、何度目になるんだか」
「わからなくもないけどね、ロマンティックだし」
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