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三.
徹の台詞を遮って放たれた遊佐木の言葉に、その場は一瞬、凍り付いたかのような静寂に包まれたが、
「いやいやいや、なんでいきなり解剖しちゃうんですか!科学と言えばまずは客観的な観察からでしょうが!」
徹がもふもふを固く抱き締め、あとずさり始める。
しかし遊佐木は、常に持ち歩いているのか、懐から皮のケースを取り出して開くと、収められたメスを手に取ってさらに近付き、
「だからとにかく内部構造を観察しようと言ってるんだ。その外見はもうわかった、悪意がある、あざと過ぎる。もし私がそいつを腕に抱いてお前のように懐柔されてしまったらどうする?この場に客観的にそいつについて考察できる人間がいなくなってしまうのだぞ。だからそうなる前に、まずはその小悪魔のような表皮を剥ぎ取ってお前にも冷静さを取り戻してもらわねばならん」
「そんなことしたら僕はもう一生冷静さなんて取り戻せませんよ!やめて下さい!ちょっと!」
「すぐだから!痛くしないから!」
「さっきからずっと何言ってんですか!?珍獣見付けた喜びで錯乱してるんじゃないですか!?科学者ならまずは客観的に行動とか食性とか習性とかそういうのから観察するんじゃないんですか!?だいたい内部構造だって、今時わざわざ解剖なんてせずとも色んな機械を使えば3Dで鮮明に映像化できるじゃないですか!」
小走りに逃げ出しながら徹が叫んで振り返ると、何かに気付いたような大袈裟に驚いた顔をした遊佐木が、立ち止まって呆然と徹を見詰めていた。
「……まさかそういうのすっかり見失ってたんじゃないでしょうね」
「……すまない……無所属の研究者なもので、そういう高額なお金のかかりそうな手法はつい念頭から除外されてしまっていたようだ……」
「いえ……気付いて頂けたならそれでいいんです……。とにかく解剖は最終手段として、まずはいったん持ち帰って飼育しながら色々確かめていったらいいんじゃないですかね。だいたいですね……」
こうしてため息まじりに遊佐木をなだめすかし始めた徹の言葉に、遊佐木は徐々に冷静さを取り戻し、やがて二人は帰路に着いた。
人目につかぬよう徹の上着でくるんだ薄桃色の生命体を抱え、なんとか無事に三階建てコンクリート造の研究所へと辿り着いたが、
「しかし飼育すると言ってもスペースが無いな。だいたい精密機器に動物の毛なんか最悪なんだし、少なくともこの部屋に置くわけにはいかないぞ」
と遊佐木は顔をしかめた。
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