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魔槍
落ちてきた影は橋へ激突するその寸前。大きく広がり急停止する。
その輪郭はまさに鳥。広げた翼は空気をとらえ勢いを殺す。
しかし、その鳥は異様だった。ユウトの知る鳥ではない。馬車がすれ違うことができる余裕の幅を持った大橋をその鳥一羽で横切っている。
「魔導灯!ヤツを照らせ!」
クロノワが指示を出し、夕闇に隠れていた魔鳥の姿を照らし出す。ユウトはその姿が信じられず塀から乗り出すように見つめた。
城壁の数か所から大きな魔導灯の指向性の光が柱のようにいくつも魔鳥へ向けられる。その光を魔鳥の身体は鈍い金属光沢の輝きをもって反射させた。それは一部分ではなく全身におよび、黄銅色の金属で構成され、金属の板が複雑に重なり合うことで鳥を形作っている。
魔鳥は光に照らされながら橋上のほぼ中央へ降り立つと、首を垂直に伸ばし赤い眼で周囲を見渡した。
そして何かに目を止める。
魔鳥の頭の向いた方向の先にはいまだ橋上を走る一台の荷馬車。砦まであと少しという距離を必死に走らせている。
「止めます」
ディゼルが一言つぶやく。すると走り出した。クロノワは待て、と一言声を掛けたがすでにディゼルはいない。走り去るディゼルの後ろ姿の手前で魔鳥を見つめているクロノワの険しい表情をユウトは見た。
ディゼルは橋と砦の接合部、門の真上まで走るとそのまま城壁から橋の方へ飛び降りた。
その姿にユウトはぎょっとする。障壁と橋までの高さは激突すればタダでは済まないほどある。
ディゼルはそのまま自由落下し地上に脚が触れる瞬間、足と石畳の間に静電気のような光が走った。ユウトにはその瞬間ディゼルが静止したように見えた。
そしてディゼルは肩から斜めに前転したあとすぐさま立ち上がり走り出すと、砦に向かう荷馬車とすれ違う。
「何するつもりなんだ・・・」
ユウトにはディゼルの意図が分からない。そんなユウトをしり目にクロトワが指示をだす。
「弓兵!魔鳥に向け矢を放て!意識をそらすんだ」
弓を持った兵士が城壁に集結して矢を放ちだす。しかし橋の中央に陣取る魔鳥には届かない。届くものもあるがことごとく弾かれている。
そうしている間に魔鳥が動きだす。両翼を地面に降ろし身構えたかと思うと頭の先、くちばしに該当する箇所が開いた。魔鳥の金属の身体の隙間が輝くと口先から光線が放たれる。
光線は荷馬車の方向へ伸びる。だが荷馬車のその手前には盾を構えたディゼルがいた。
ディゼルは盾を右手でも支え、光線を受け止める体制を取っている。
そして光の渦のような光線がディゼルをとらえた。
光が拡散する。魔鳥から放たれた光線はディゼルから上方へ向けて扇のように広がっていた。
それはユウトの魔剣の光の刃が弾かれた時と同じような現象。
数秒の後、光線は収縮して消える。その間に馬車は門をくぐり切ることができた。
ディゼルは無傷の様にユウトには見える。
魔鳥は体制を変えず、一度消えた体の発光がまた起こりだした。より力を溜めているようにユウトは感じる。強力な第二射を予感した。
「ディゼェェル!もどれぇぇぇー!」
ユウトは思わずその場から叫ぶ。あの盾が魔道具としてその効果の発動時間があとどれだけ持つのかという心配も重なる。
一連の様子を黙っていたガラルドがレナの方を向いた。
「レナ。魔槍の使用を許可する。目標は魔鳥。着弾を優先。今すぐ起動しろ」
ガラルドはレナに向かって突然指示を出す。この状況でレナに何ができるのかユウトは不思議に思った。
「了解しました」
レナは突発的な指示にも動揺を見せない。
「みんな引いて!今から魔術具を使う!」
そう言いつつ短槍の穂先の鞘を外す。レナを中心に兵士達含めユウトも距離を取った。
レナは右手で担ぐように槍を構え、左手を前方に伸ばし脚を広げる。先ほどのディゼルとの戦闘での構え方と違うとユウトは気づいた。
前方に伸ばした腕は魔鳥に向けられている。レナは言葉を紡ぎ始めた。
「魔術式展開。蓄積魔力開放。精度、距離重視。目標、前方魔鳥」
レナの持つ槍に青い光の筋が走り出す。
「軸足固定。反動制御式展開。魔力経路直結。膨張機関加圧開始」
レナの脚と地面との間、槍を握る手、槍自身と順に発光が始まり一拍の間が空いて一言。
「撃ちます」
投げた。しかしそれは投げたというより発射されたと言った方が正しいかもしれない。レナが体をひねり腕を伸ばしたがその動きは緩やかだった。そして槍が手を離れた瞬間、射出されるように猛スピードで魔鳥へ直進していく。
浅く弧を描いた青く光る弾丸のような槍が魔鳥へ迫る。狙いは正確で命中は確実と思えた。
魔鳥は迫る攻撃に気づいたのか身体を固定するために広げた翼を持ち上げ防御の姿勢を取ったように見える。槍はそのまま魔鳥の巨大な片翼を削りながら進み弾道をそらされた。魔鳥の首元をかすり金属の外装に傷を作ると橋のらんかんを直撃して河に落ちた。
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