提案

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「彼は姿が変わってしまった原因をつきとめるために大工房に向かう途中だそうだ。魔術槍での攻撃もそうだが今ここに小鬼殲滅ギルドの面々がいてくれたことは幸運だ。皆も理解してくれ」  全体の空気が落ち着いたのを見計らいクロノワは話をまとめる。  あえてディゼルに助け舟を出させたのではないかとユウトは一瞬疑う。異質なゴブリンの姿をしたものが作戦に関わるのをよしとしない者もいたはずで、もし意図して場の空気をかき乱し、地ならしをして統一させたのならクロノワは食えない人だとユウトは思った。 「この作戦は単純に言ってしまえばディゼルが守りつつ魔鳥へ接近してユウトが倒す、ということなんだが問題も多い。  一つ、ディゼルの魔術盾の魔力量がが心もとない。これについては皆に協力してもらい少しでも魔力量を多くするしかない。避難している一般市民の方々にも協力を募ってみてくれ。  二つ、魔鳥に接近するための足を用意したい。走って橋の中までにたどり着くには時間がかかり過ぎる。それでは盾の魔力が底をついてしまうだろう。だからできるだけ足の速い馬を用意する必要がある。速いこともそうだが攻撃に対してひるまないことも重要だ。そういった馬を選定しなければならない。  対処法について案があれば発言して欲しい。私の上げた案以外の意見でも構わない」  クロノワが言い終わると一人の兵士が質問する。 「魔鳥に傷を負わせたあの攻撃はもう無理なのですか?」  質問を聞いてレナが手を上げ許可を得て答える。 「あれは実験的な魔術具で手持ちはあれ一本しかなかった。大工房まで行けば制作できる。けどどれほどの時間がかかるかわかない。そして特殊な発動工程を踏むからあたし以外にはおそらく扱えない。これらからクロノワ団長の作戦が失敗した場合の最終手段にしておくぐらいにしかないと思う」  レナの答えを聞いて皆納得せざるを得なかった。 「わかった。最悪の事態も考慮して対岸の砦から伝令はでしておくとしよう」  次に手を挙げたのはガラルド。 「魔力の充填にはユウトを使え。実績がある。ユウトの減った魔力はこれで回復させる」  ガラルドは手短に話すと机の上に小さな袋を置き中から大きめの飴玉のような半透明の玉を取り出す。 「これは魔力を蓄積させ凝縮した丸薬だ。服用すれば一時的に魔力量が回復される」  会議の場が少し沸き立つ。 「それはありがたい。使わせもらおう。これで動ける兵士の数がかなり確保できる」  魔力提供をしなくてすむことで動ける兵士が多くとれることがわかり。その余剰人員をどう活用するか、という話題に移行していく。  ユウトはガラルドの出した丸薬がこの世界に来て初日にヨーレンが診療で注意していた丸薬のことではないかと思い一抹の不安を感じていた。そんな時セブルが話しかけてくる。 「ユウトさん、ユウトさん。あの丸薬、ボクももらえないですか」 「まぁ、構わないと思うが、セブルは食べるとどうなるんだ」 「少しの間でも魔力が回復すればおっきくなって速く走れるようになれます。そのへんの馬よりずっと速い自信ありますよ」  セブルなら魔鳥の攻撃に対してもひるむことはないだろうとユウトは考える。 「何人運べそうだ?ディゼルが先頭を走る必要があるからセブルは必ずディゼルを載せることになるが」 「あー・・はい。大丈夫です。ディゼルを載せるのは我慢します。ユウトさんも合わせてお二人なら運べると思います」  セブルはもぞもぞとうねり不服そうに承諾した。 「わかった。なら提案するよ」  盛り上がりを見せる議論の切れ間を探してタイミングを見計らいユウトは手を高く挙げた。 「ちょっといいかな。提案がある」  ユウトに向けて一斉に注目が集まる。 「構わない。聞こう」  クロノワが話を促す。 「足となる馬の件。ディゼルとオレを同時に運ぶということで用意できそうなんだけどあとで確認してもらっていいか」 「本当か!それは助かるな。確認させてくれ」  クロノワは快諾した。  その様子を見ていたレナがユウトの斜め後ろから話しかけてくる。 「あんた当てがあったの?ここに来たばかりでしょ」  耳元で小声でレナに話しかけられユウトは思わず身体が震えた。 「ちっ、ちょっと試してみないとわからないけど自信はあるよ」  ユウトはレナから後ずさる。セブルがレナに向かって一鳴きした。  それから慌ただしく各部隊の作業内容が決められていく。 「こちらの準備や調査にかかる時間。魔鳥の回復にかかる時間を考えて作戦決行は明朝とする。それぞれ今決めた任務を遂行してくれ。報告は怠るな。解散」  クロノワは作戦会議をまとめ上げ終了させる。一斉に集まっていた人たちはその場を後にして与えられた任務を実行に移し出した。慌ただしく人が出ていった後に残されたのはクロノワとディゼルの騎士とユウト、レナ、ガラルド、ヨーレンの小鬼殲滅ギルドだけとなった。
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