空中戦

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空中戦

 ユウトは魔鳥に向けて山なりの軌道で宙を舞う。ディゼルの魔術盾の威力調整、方向調整は完璧だったがユウト自身の態勢は若干回転をしていた。  足場のない無重力状態の中でもユウトは視線を魔鳥に向けたまま魔剣を振るタイミングを見計らい態勢を整える。  その時体の内側から雪崩のように精気が膨れ上がる感覚に襲われる。この異変は直前に飲み込んだ丸薬がその効果を発揮しだしたのだとユウトは解釈した。  精気が満たされるとともにユウトの感覚はどこまでも鋭敏さを増し、時の流れが緩やかになっていく。  迫るユウトに気づいたのか不安定な態勢にも関わらずユウトに向けて頭を向ける魔鳥。その魔鳥の一挙一動からユウトはすぐ先の未来を予想し事態の深刻さに気付いた。  ユウトはすぐさま魔剣に力を込め光の刃を展開させる。ディゼルの剣を断った時のように徹底的に出力を圧縮、さらにまだ遠い魔鳥の頭めがけ刃を伸ばした。  横なぎに振るった魔剣は魔鳥をとらえる。黄銅色の装甲板に確かな傷を刻んだ。  だが足りない。魔鳥の装甲は流動し魔剣の刃が触れる個所を厚くさせることでユウトの一振りを凌ぎ切った。  魔鳥の頭は展開を始め魔力が収束していく様をユウトはゆっくりと流れる時間の中で見つめることしかできない。無防備な空中、防御手段を持たないユウトは魔鳥の放つ光帯を体のどの部位を犠牲にして凌ぐか、ということを考えるしか手段が残されていなかった。  もう光帯が発射されるかというその時、ユウトの視覚は視野の隅で不自然に動く物体をとらえる。緩やかな円錐形した物体が回転しながら異様な速度で一直線に進行し魔鳥の本体を打った。  円錐の物体は魔鳥の体を貫通こそしなかったもののその衝撃は魔鳥全身を揺さぶり今にも光帯を放とうと狙いを定めていた魔鳥の頭部をユウトからずらした。  そして光帯は放たれる。熱を感じる近さでユウトの近くを横切った。  魔鳥に与えられた衝撃は取り繕った安定の均衡を揺さぶる。魔鳥は体を大きくうならせもう一度崩れた態勢を取り戻そうとしてその体は大きく回転を始めた。  瞬間ユウトは察知する。これまで隠されていた魔槍の傷が覗くと予見できた。  放物線を描くユウトは空中で態勢を崩した魔鳥の真上にまで迫る。最初で最後のチャンスをものにしようと狙い定めて魔剣を振るった。  伸びた刃は傷をとらえて抉り斬る。魔鳥の装甲は厚みを増す間もなくユウトの魔剣は内部へ確かな損傷を与えた。  魔鳥の首元から下は装甲の彩度が一気に下がり動きも止まる。浮遊するための機能も停止したように見え、きりもみしながら落下を始めた。  魔鳥は落下しながらもまだ動く頭部と首をしならせる。最後の一撃とばかりに頭部発射口は開かれたままユウトへと向けられた。  ユウトは間髪いれず再び光魔剣の斬撃を浴びせ続ける。残りの魔力を出し切るような連撃に魔鳥の装甲は耐えきれず剥がれ落ちていき頭部の結晶体を露出させた。  最後の一撃とばかりにユウトは力を振り絞り結晶体へ光の刃で斬りつける。結晶体に亀裂が刻まれそこを起点にひびが入り粉々になって飛び散った。  飛び散った結晶体の中心には今だ赤々と輝く磨かれた石が現れる。ユウトの体も飛ばされた勢いを失い落下を始めていた。赤い石は意思を持ったように落下の中でユウトの目の前まで近づき輝きを失う。思わずユウトは空いた手で石を掴んだ。その瞬間ユウトは水面に落ちる。  城壁の上で一部始終を傍観していた者たちはあっけに取られ水面に落ちた魔鳥が打ち上げる水柱を息を飲んで見つめる。 「どこッ?!ユウトは!」  ハッと気づいてまず声をあげたのはレナだった。  クロノワはすぐさま船を出すよう指令を出す。あたりの兵士たちもあわただしく一斉に動き出した。  レナは水しぶきが霧のように舞う水面を注意深く見つめる。橋上ではセブル、ディゼルが橋の欄干ギリギリまで身を乗り出し水面を見ていた。セブルは今にも水面へ飛び込もうとするほど乗り出している。  ユウトの姿は未だ発見できない。すると河岸の方から水面の下を移動する何かがレナの目に飛び込んできた。 「何?アレ」  丸みを帯びた卵のようなシルエットの何かは水面下をセブルのトップスピード並みの速さで後方に白い尾を残しながら移動している。その水中移動物体は魔鳥の水没地点へ近づくと影が消えた。  しばらくしてとユウトが水面から現れる。  しかしその様子はは不自然だった。  ユウトの体はほとんどが水面上から出ている。何かしら水中から押し上げられているようだった。  ユウトはそのまま橋脚まで移動すると橋脚からせり出した基礎の部分に降りる。レナにはそれ以上の詳細は遠すぎて見えなかった。 「よかった。無事みたい」  誰に告げるでもなくレナはつぶやく。何があったのかはわからなかったがユウトの無事を目視して緊張した肩の力が抜けた。
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