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田中がふらっと街へ出向くと、
駅付近の路上でパフォーマンスをしている青年がいた。
その青年はストリート宇宙飛行士と名乗っているようだが、
演目内容は目に余る酷さである。
観衆は一人残らず全員が冷ややかな目で彼を見ていた。
可哀想に。強く生きろよ。
ふと青年の横に視線を移すと、空気状態の女性が俯いて涙を流していた。
田中は彼女に優しく声をかける。
「どうしたんですか? 何か辛いことがあったのなら話してください」
彼女は半ば顔を横に上げて応じた。
「お声かけありがとうございます。でも、いいんです」
「そうですか。でも、無理はなさらない方が良いですよ。
......って、佳奈ちゃん?」
「あ、田中さん! お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
泣いていた彼女の名前は、氷夜屋 佳奈。
今年で27歳、バリバリのキャリアウーマンだ。
田中とは任務中によく会って世間話をする間柄で、
人間としても時折連絡し合っている。
彼女の落ち込んでいた理由がどうしても気になり、田中は再び尋ねた。
「いやいや、それは構わないさ。
で、さっきのはどうしても教えられない感じ?」
佳奈は何度かためらいを見せたが、意を決して田中に打ち明けた。
「実は明日、以前に田中さんにも紹介した彼と結婚するんです」
「おお、おめでとう! あの彼なら楽しいだろうな。
全然悲しむような話じゃないじゃないか」
内容は大変喜ばしいことなのに、なぜ。
「『冷ややかな』ムードメイカーの私と結婚してくれる人なんて、
彼以外いないとは思っています」
「それなら尚更......」
「彼を......彼を騙すことになってしまうんじゃないかって、不安なんです!」
一体全体どういうことだろうか。
「私はまだ彼と夜を一緒に過ごしたことがありません。
いつも用事があると言って、デートは昼にしてもらってきました。
なので、彼は未だ私のことを夜に頻繁に出掛ける女だと思っているはずです。
結婚して同棲を始めたら、彼にどう言えばいいのか......。
そもそも、冷ややかな空気を生み出す私といて彼が本当に幸せなのか、
それも心配で......」
相当深刻に悩んでいる様子である。
頭を抱える佳奈に田中は告げた。
「大丈夫。俺にも同じような立場の妻がいる。
彼女はこんな俺でも一生懸命に支えてくれているよ。
だから、そのことについては心配いらない。
そして、二つ目の問題は明日になれば解決するから。
少しの辛抱さ」
彼のこの発言が無責任なものでないことは、翌日分かることになる。
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